第一章 邂逅のブロンズソード
第12話 王国騎士団・予備団員ダタッツ
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を請け負っている担当医も、普段から酷く怯えた様子でダタッツに接していた。
本来なら包帯が取れるほどの運動は避けねばならず、それを破れば彼の叱咤が飛ぶはずなのだが――ダタッツに対してはそれもない。ただ震えながら、包帯を取り替えるのみ。
それが自身への恐怖によるものだと知っているダタッツは、苦い表情で包帯を拾う。これ以上動いて包帯を落とせば、医師の寿命を縮めるだけだからだ。
(日課の素振りもこなせない毎日になってしまったな……。王国を狙う敵が減るのは、いいことかも知れないが)
練兵場から背を向け、立ち去る仕草を見せるだけで――騎士達の安堵する声が聞こえてくる。その息苦しさにため息をついて、ダタッツは静かに歩き始めた。
――王国の姫君が帝国勇者を召し抱えた、という噂は城下町を中心に広がりつつある。諸外国の耳に入るのも、時間の問題だろう。
それを信じる者はダイアン姫の血筋を狙うことはなくなるだろうし、帝国勇者の死を疑わない者は返り討ちに遭う。ダタッツが留まれば今後も王国が安全であることは、紛れもない事実であった。
しかし、彼の力という防壁の内側に生きる人々は、その限りではない。
かつて自分達を敗戦国に堕とした最強の男が、騎士として我が物顔で国内を闊歩する。それは国民にとって、街中に猛獣を放たれるよりも遥かに恐ろしいことなのだから。
いたずらに王国人を恐れさせず、他国の干渉も遮る方法。
その答えが「誰にも関わらない」ことに行き着くまで、そう時間は掛らなかった。
(こうして王宮内から出ないようにすれば、少なくとも町のみんなは……ハンナさんやルーケンさんは、怖がらずに済む。今はきっと、これでいいんだ)
自分に向けられた、深い悲しみと怒り。あの二人の視線から確かに感じた、剥き出しの感情。
その記憶は克明に、彼の脳裏に焼き付いている。誰もが彼を避ける理由を、突き付けるかのように。
そしてそれが当たり前なのだと、ダタッツは受け入れようとしていた。諦めようとしていた。
「待てっ!」
――だが。
それを、当たり前にさせない者がいた。
正規団員の鎧を纏う、小さな騎士。その人物には――恐れを微塵も伺わせない、晴れやかな瞳がある。
今の正規団員の誰もが持たない、騎士としての掛け替えのないものを秘めたその瞳は――この国に災厄を齎した最恐の男を、ただ真っ直ぐに射抜いていた。
「……ローク君か。すっかり元気になったみたいで、よかったよ」
「るっせぇ帝国勇者! どういういきさつで騎士団になったか知らねぇが、オレはお前を認めてなんかいねぇんだからな!」
ダイアン姫の治療を受け、全快したロークの全身からは、弾けるような気勢が溢れている。
鎧の輝きに見合う気高さが、
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