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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十五話 暗い悦び
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ない。ここで入院できた事は幸運だと思うべきなのだろう……。
「エーリッヒ、どうした」
キスリングが心配そうに聞いてきた。俺が沈黙しているのが気になったらしい。
「なんでもない」
そう答えた。後でだ、後で話す。どちらにしろ内務省とオーベルシュタインが組んでいる事は分かっているのだ。今無理に話す必要は無いだろう。
キスリングはその後、三十分ほどクーデターの顛末を話してから帰っていった。“これ以上居ると疲れさせてしまうからな” それが帰り際の言葉だった。
キスリングが帰った後、俺は一人天井を見ながら考えた。ラインハルト、オーベルシュタイン、キルヒアイス、この三人はいずれ処断する。たとえこの後、大人しくしていたとしてもだ。大体部下がクーデターを策しているのに何も気付かない上官など目障りだ。ラインハルトに対して強烈なまでの敵意が湧いてきた。
だが、今は処断できない。内乱勃発早々、別働隊の指揮官を罷免などしたら軍の士気が下がりかねない。処断は内乱終結後だ。多少強引な手を使っても始末する。
オーベルシュタインもそのあたりは理解しているだろう。つまり、奴も限られた時間の中で、俺を殺そうとするに違いない。
厄介な事だ。どうでも受け太刀で戦わなくてはならない。もどかしい日々を過ごす事になるだろう。苛立ちも募るに違いない。
だから良いのだ。処断するときには何の迷いも無く冷酷に対応できるに違いない。怒りが、もどかしさが、苛立ちが募れば募るほど、そのときの喜びは深いものになるだろう。
俺は一人静かに笑った、大声で笑うと胸が痛むから。ヴァレリーが俺の笑い声を聞いて嬉しそうな表情をするのが見えた。嬉しいかヴァレリー、俺も嬉しい。俺は今、ラインハルト、オーベルシュタイン、キルヒアイス、この三人をどうやって地獄に落とすかを考えているのだ。これからの入院生活は退屈せずに済みそうだ……。
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