第一章 邂逅のブロンズソード
第11話 離れていく心
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たまれない表情で目を伏せる。そんな彼の反応を見て、ルーケンとハンナはダタッツという旅人の知られざる一面を、垣間見てしまうのだった。
「……確かに彼は、帝国出身の剣士です。しかし、今はどこにも属さぬ流浪の傭兵。いつどこで誰のために戦おうと、不思議ではない身の上です。貴方方が気にすることはありません」
「……!? バルスレイ将軍、彼をご存知なのですか!?」
その時。
ダタッツの側に立つバルスレイの言葉に、ダイアン姫が目を見開く。一介の傭兵と元司令官に繋がりがあるという、にわかには信じがたい事実に彼女は驚愕していた。
「彼は以前、私の元で修行していた名うての騎士だったのですが……数年前、旅に出たきりでしてな。ここで会うとは思いませんでしたよ」
「そう、だったのですか……。しかし、戦勝国である帝国の身分を捨ててまで、なぜ王国に……」
「私と道を違えても、王国を尊重する気持ちは彼にもあります。恐らくは風の噂でババルオの話を聞き、居ても立っても居られなかったのでしょう」
「……」
そんな彼女を説き伏せるように、バルスレイは次々とダタッツの人柄を語っていく。ダイアン姫はそれを受け、半信半疑の面持ちで再びダタッツを見遣るのだった。
(帝国軍の総司令官であり、戦後の王国を擁護されていた方が、わざわざ嘘を吐くとは思えない。だけど……彼の元で修行していた経験だけが、あの途方もない強さの理由なのでしょうか……)
信じられないわけではない。それでも、納得しきれない。そんなもどかしさを抱えて、ダイアン姫はダタッツを見つめていた。
「バルスレイさん……」
「嘘は言っていないだろう。ここでお前に会えると思わなかったのは本当だ。とにかくこの場は、私の言い分に乗じておけ」
「……」
ダタッツの方も、心配げな表情でバルスレイの方を見上げていた。そんな彼を元気付けるように、バルスレイは穏やかに微笑んでいる。
「ま、昔がどうだったかは知らないが今のダタッツ君は、俺達の味方ってことだよな。バルスレイ様がそう言うんだ、間違いない!」
「そっ、そうだよ! それにダタッツさんの歳だったら戦争にも行ってないはずだし……きっと、これから仲良くなれるよねっ!」
一方、ルーケンとハンナは今の話でダタッツが信頼に足る人物であると判断したらしく、すっかり落ち着きを取り戻しているようだった。
その根拠には――ダタッツの年齢を鑑みるに、六年前の戦争に参加していたとは考えにくい――というものがあった。当時の帝国軍では、少年兵の募集は行われていなかったからだ。
あの争いのただ中にいなかったのなら……王国人の血に汚れていないのなら、今からでも分かり合えるかも知れない。そんな期待が、帝国出身という壁を乗り越えようとしているのだ。
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