暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第一章 邂逅のブロンズソード
第10話 ユニコンの幻影
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ると――目の前に広がる光景に歓喜の涙を流すのだった。
 まだ、ダタッツは生きているのだと。

「なんだ、さっきの動きは……! さっきまでとは、まるで別人ではないかッ!?」
「容赦はしない、とは言ったがな。最初から本気を出すなどとは一言も言っていないぞ」
「なにをッ……!」
「あの二人が受けた痛みの、数千分の一でも味わってからでなければ――お前如きとやり合う気にもならなかったからな」

 涙に滲む景色の向こうで、ダタッツは鋭い眼差しと共に剣を振り上げ――アンジャルノンの巨体へ肉迫する。
 その電光石火の如き速さに、巨人は目を剥き……本能に襲い来る恐怖と相対した。

「このっ……小僧がァァァァッ!」

 鉄球の間合いから、一瞬にして懐へと入り込むダタッツ。
 その正面に、ダイアン姫を沈めた鉄拳が迫る。己に降りかかる「恐れ」を、振り切ろうとするかのように。

 アンジャルノンには例え鉄球をかわされても、鋼鉄の籠手で固められた拳という武器がある。それを攻略しなければ、この巨壁を粉砕することは出来ない。

 しかし、真っ向からダタッツに迫っているこの拳をかわせば、そこに隙が生まれる。その僅かなタイムラグがあれば、伸び切った鉄球を引き戻すことも出来る。
 ダタッツが決定打を放つには、アンジャルノンの鉄球が戻ってくる前に、剣が届く間合いまで接敵するしかない。しかしこのまま直進すれば鉄拳に激突し、かわせば攻撃のチャンスを失う。

 そのジレンマの中で――ダタッツは恐れることなく、ただひたむきに進み続けていた。まるで自分に迫る危機など、認識していないかのように。

 そして――その勢いに身を任せたまま、籠手に向かい剣を振り下ろそうとする。

(バカめ、いくら腕が立とうと剣がなまくらでは勝ち目などない。そんな銅のおもちゃでは、俺の拳を粉砕することなど――)

 一見すれば自殺行為でしかない、その行動を嘲り……アンジャルノンが口元を緩める――

帝国式(ていこくしき)――『(とう)剣術(けんじゅつ)

 ――刹那。

 ダタッツの手元から、銅の剣の柄が離れ……その刀身は、銅色の矢と成る。一角獣(ユニコン)の幻影を纏うその一閃は、神獣の一角の如き鋭さで――アンジャルノンの額を狙う。

 その擦り切れた切っ先は、空を斬り裂き風を断ち――巨人の拳を掠めていった。

「……が、あッ……!?」

 そして。

「――『飛剣風(ひけんぷう)』」

 剣の先端が真紅の兜に激突した瞬間。

 アンジャルノンの兜と、ダタッツの剣が――同時に砕け散るのだった。

 刹那――衝撃により生まれる風が、闘技舞台を吹き抜けて……ハンナの頬を撫でる。

「……(けん)の、(かぜ)……」

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