第一章 邂逅のブロンズソード
第9話 ダタッツという男
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「……なんだ、てめぇは」
「文無しの旅人だ」
獲物を射抜く狩人の眼で、アンジャルノンはダタッツを一瞥する。ロークを抱え、闘技舞台へ着地した彼の身のこなしを目撃した巨漢は、目の前の男がただの旅人ではないと睨んでいるようだった。
一方、ダタッツは彼と視線を交わすことなく背を向け、闘技舞台から降りて行く。その両腕に、小さな騎士を抱えて。
「や、野郎! また俺達の邪魔……を……」
その進路上に立ち塞がったのは、およそ十日前にダタッツを斬ろうとしていた帝国兵だった。一度ならず二度までも自分達の邪魔に入ってきた浮浪者に、彼は容赦なく剣を向ける。
――だが。ダタッツの眼差しが漂わせる殺気に触れた瞬間。
彼は本能に命じられるまま、動きを止め……通り過ぎて行く彼の背を追うことすら出来なかった。
そして。
ダタッツの足が止まる時――彼の目の前には、呆気に取られた様子のルーケンとハンナが立っていた。
「ダ、ダタッツ君、君は……」
「ルーケンさん、隙を見てダイアン姫の身柄を運び出してください。ハンナさんは、ローク君を」
「えっ、あ、う、うん……」
彼らの理解が追いつかないうちに、ダタッツは二人にロークを預け、踵を返して行く。向かう先は、闘技舞台。
その行き先を見遣り、ハンナはダタッツが何をするつもりなのか悟り――冷や汗をかくのだった。
「ダ、ダタッツさん!」
「はい」
「……き、気を付けてね」
「ええ。ありがとうございます」
だが、彼が持つただならぬ雰囲気に飲まれていた彼女は、その背を引き留めることが出来なかった。
せめてもの思いで掛けた言葉に微笑む姿を見ても、不安は拭えず。彼女の手は、動悸を押さえるように豊かな胸の上で強く握り締められていた。
そんな彼女の見送りを背に受け、ダタッツは闘技舞台へ戻っていく。民衆は彼に道を譲るように、左右へと広がっていた。
しかし、帝国兵達は――再び剣を抜き、その行く手を阻もうとしている。
「待ちやがれ。さっきから舐めた真似しやがって、覚悟は出来てるんだろうな」
「俺達は栄えある帝国の兵士様なんだぜ。その俺達を無視して、アンジャルノン様のところに行こうなんざ――」
ダタッツの殺気に気づかない兵士達は、苛立ちを募らせるように剣先を揺らし、彼を睨み付ける。口々に、恫喝の言葉をぶつけながら。
そんな彼らに、ダタッツは何も言い返さない。
「……」
何も言い返さないまま。
「がっ――」
「あっ――」
銅の剣の一閃で、障壁を薙ぎ払うのだった。
「なっ!?」
「や、野郎ふざけやがって!」
「俺達に逆らったこと、後悔しやがれ!」
刃の潰れた銅の剣による「打撃」を浴びた帝国兵達が、次々に宙
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