第一章 邂逅のブロンズソード
第8話 ロークの奮戦
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ダイアン姫にはもはや、突き立てられた王家の剣に、手を伸ばす力すら残されてはいない。試合の決着は、ついたと言っていいだろう。
――だが、アンジャルノンは歩みを止めない。横たわる姫騎士を見下ろしたまま、じりじりと近寄って行く。
その表情は、闘いを終えた武人のそれではなく――仕留めた獲物を見つめる、狩人の色を湛えていた。
彼の貌を見た者は、その先にある未来を想像し、戦慄を覚えて行く。
「おぉ……まさかこのような結果になろうとは。真に上に立つ者として、我々が責任を取らねばなりませんな。ババルオ様」
ダイアン姫の傍らでようやく立ち止まったアンジャルノンは、試合内容を見下ろしていたババルオに視線を移す。
巨大な両腕を大仰に広げ、哀しむような声を上げながら。
「うむ……その通りであるな、アンジャルノンよ。経緯はどうあれ、一国の姫様を傷付けてしまったことは事実。我が帝国の医療技術を以てして、ただちに治療しなくてはなるまい」
ババルオも、大袈裟に嘆き悲しむように頭を抱え、聞こえよがしに今後の「流れ」を創り出そうとしていた。
姫の身柄を一時でも預かれば、あとは「オンナを言いなりに出来る」薬でどうとでもなる。そうなれば王国はババルオ一人の手中に落ち、全ての国民が喰い物にされる。
水面下で進行しつつあるその計画を止められる人間など、いるはずがない。仮に居たとしても、その人間が何かをする前に全てが終わっている。
野望の実現を目の前にして、ババルオの醜悪な口元は、歪に吊り上がった。その邪念に満ちた眼差しは、痛ましい姿で倒れている姫騎士の肢体に注がれていた。
「ルッ、ルーケンさんどうしよう! どうしたら……!」
「ち、ちくしょう! このままじゃ姫様が……! こうなったら……!」
このままババルオ達の言う通りに事が運べば、自分達の希望――ダイアン姫に、良くないことが起きるに違いない。直感でそう悟った民衆は、自分達で姫君を取り返そうとしていた。
「へへへ……やめとけよ。ババルオ様がああ仰ってるんだぜ? 帝国のご厚意に預かれるなんて、光栄なことなんだからさ」
「う、うるさい! 帝国の連中に姫様を渡せるものかよ!」
「へっ、そうかい。まぁあんた達がどう言おうと、ここを通さないのが俺達の任務だ。試合の巻き添えで怪我人を出しちゃ悪いっていう、ババルオ様の温情による――な」
「ぐ……!」
しかし、闘技舞台を塞ぐ帝国兵達は厭らしい笑みを浮かべて、その行く手を阻んでいる。丸腰の人々に、嬉々として剣を向けながら。
怪我人を出さないための措置。そんなものは、外部に手を出させないようにするための方便に過ぎないことは、誰の目にも明らかだった。
……しかし、その権威の力は道徳さえ飲み込み、人々の想いを踏
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