第一章 邂逅のブロンズソード
第8話 ロークの奮戦
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か借りない、汚い手でオレ達の姫様に触るなっ!」
「なるほどな。しかし、そういう説得は文官の仕事だぜ坊や。剣を持って闘技舞台に上がったからには――」
嘲るように嗤うアンジャルノンに対し、ロークは精一杯声を張り上げる。
その背に続く騎士は一人も居ない――が、ブラウンの瞳に宿る勇気だけは、騎士団全員分に匹敵する輝きを放っていた。
「――その剣で意見を通すんだな」
その輝きを、吹き飛ばすように。
アンジャルノンの鉄球が空高く舞い上がり――ロークの足元を粉砕する。
「……ぁ……」
声を出すことも叶わず、その小さな身体は衝撃に飲まれ、宙へ投げ出されて行く。
幼子にすら容赦をしない、その一撃を目撃し、観衆からさらに悲鳴が上がった。
力無く吹き飛ばされて行くロークの影を見つめるダイアン姫は、声にならない叫びを上げ――目尻に涙を浮かべる。
(許して……! 助けてなんて言わないから! 運命に逆らったり、しないから! だからっ……!)
もう、自分のことなどどうでもいい。
今目の前で繰り広げられている惨劇さえ止められるなら、奴隷になっても構わない。
そう思えてしまうほど、彼女の心は限界まで追い詰められていた。
(もう誰も、傷つけないで……! お願い……!)
絶望の淵に立たされた心。その奥底から、そう泣き叫んだ時。
「……!?」
ロークの影とは違う――もう一つの影が、ダイアン姫の視界を横切った。
その影はロークの身を攫い、舞い降りるように闘技舞台の上へ立つ。
風に靡く、黒い髪。赤いマフラー。
それが目に入った時。
ダイアン姫は思わず残された力を振り絞り、身を起こすのだった。微かに残された可能性に、縋り付くかのように。
「あ、ぁ……」
意識を失い、力無く瞼を閉じているローク。その小さな身体を抱える彼の瞳は、どのような名剣よりも鋭利に研ぎ澄まされている。
出会った時のような、間の抜けた色など一切ない。別人のような「実態」が、そこに現れていた。
それを目撃し、ダイアン姫の胸中に生まれた可能性が、徐々に希望として膨らんで行く。
例え、「それ」が幻だったとしても。もう、彼女には「それ」しかないのだから。
「その剣で意見を――か。確かにその通りだな」
そんな彼女を一瞥する、根拠もなく縋られた男――ダタッツは。
「おかげ様で、ジブンが戦う理由が出来た」
腰の鞘から銅の剣を引き抜き……低く唸るような声で、真打ちの登場を宣言するのだった。
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