第一章 邂逅のブロンズソード
第7話 姫騎士の敗北
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宙を舞い、円を描くように動き回る漆黒の鉄球。その得物を操るアンジャルノンの瞳は、どす黒い欲望を滲ませ、ダイアン姫を貫いていた。
逆らうことを許さない圧倒的な力。向き合う者を圧殺するその迫力に、ダイアン姫の心が震え上がる。
(わたくしは、恐れない! 恐れてはいけない!)
だが、まだ折れてはいない。最後の砦――理性は、まだ生きている。
自身を狙い、弧を描いて襲い来る鉄球の一撃をかわし――彼女の凛とした眼差しが、眼前の仇敵を射抜く。
次いで、彼女の身体が弾き出されるように、アンジャルノン目掛けて突進していく。その踏み込みの速さに、赤い巨漢が目を剥く瞬間――
「やぁあッ!」
「ぬ……!?」
――彼女の滑らかな曲線を描く肢体が、床の上を滑るように……アンジャルノンの股下を潜り抜けるのだった。
鉄球をかわしてからの、流れるようなスライディング。一切の無駄を許さないその立ち回りは、見るものを魅了するほどの鮮やかさを放っていた。
「とあッ!」
その流れは、まだ止まらない。
アンジャルノンの背後に回ったダイアン姫は、背を向けた体勢のまま飛び上がる。その姿勢から後方に体を回転させ――太陽を背に、巨人の頭上へ舞うのだった。
「捉えたッ!」
「ぐ!?」
そして、アンジャルノンがダイアン姫を捕捉する頃には。彼女は両膝で彼の頭を挟み、王家の剣を逆手に構えていた。
反撃の一切を許さない、体格差を利用した速攻。アンジャルノンがそのスピードを捉えるより速く、彼女の剣が真紅の兜に突き立てられるのだった。
「……!」
悲鳴を上げる暇もなく痛烈な一撃を浴び、赤い巨漢は足元をふらつかせる。兜には幾つもの亀裂が走り、その奥にある生身の頭は振動に脳を揺さぶられていた。
「はっ!」
その反応に確かな手応えを覚えたダイアン姫は、短い叫びと共にアンジャルノンの胸板を蹴り、反動を利用して間合いを取る。
残心を取る彼女の視線の先では、アンジャルノンの巨体が膝から崩れ落ちようとしていた。
「や……やった!」
「姫様が勝った……勝ったんだ!」
「やったぁぁああ! 姫様ぁあああ!」
ダイアン姫の勝利を象徴するような、その光景を目の当たりにして――民衆は高らかに歓声を上げる。
悪辣な巨漢を打ち倒す正義の美少女という、圧倒的なカタルシスを生むこの瞬間に、観客は熱く沸き立っていた。
「ルーケンさん! やった、やったよぉお!」
「当たり前だろ、姫様は無敵さ! 一対一で帝国の兵になんざ、絶対負けやしねぇ!」
ハンナやルーケンも、涙を貯めて狂喜している。未だに渋い顔で試合を観ているダタッツを、尻目に。
(やった……! 手応えは確かにあった! これなら後は、「あの技」で
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