第一章 邂逅のブロンズソード
第7話 姫騎士の敗北
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こうなることは始めから決まっていたのだ。お前は、ただ甘い夢に酔っていたに過ぎん」
突き付けられた現実が、傷付いたダイアン姫の胸に突き刺さって行く。王家の剣を杖にようやく立ち上がった彼女だったが、すでにその心は折れかけていた。
(……全て、計画されていたことだったのですね。わたくしが、今日まで勝ち残って来たことも、全て……!)
恐れていた可能性の群れが、自分を喰らい尽くそうと襲い掛かってくる。その感覚に、彼女の両膝が嗤うように震えていた。
民のために耐えぬこうとしていた矜恃さえ崩れ、熱い雫が頬を伝って行く。自分という人間を形作っていたもの全てが、音を立てて瓦解していくのがわかる。
(弄んで、蹂躙して、支配して……! この国は、民は、お父様は、わたくしは……そんなことのために……!)
そんな中。
悔しさという、ただ一つの「怒り」に由来する感情が、彼女の胸を染め上げた時。
悲しみの全てをぶつけ、訴えるように。
今まで培ってきた剣術の基礎さえ捨てた、がむしゃらな剣技で。
ダイアン姫は、王家の剣を振り上げ――アンジャルノンへ向かっていく。
勝てないとしても、せめて一矢だけは報いたい。それだけの願いが、彼女を突き動かしていた。
だが。
「往生際の悪いッ!」
「あうっ……!」
それさえも、紅の巨人は道理を覆す「力」を以て踏み躙るのだった。
裏拳の一撃を浴びたダイアン姫は真横に転がっていき、擦り傷だらけの姿で闘技舞台の上へ横たわる。命中の瞬間、舞台の周辺では痛ましい光景を目の当たりにした観衆の悲鳴が上がっていた。
倒れ伏したダイアン姫は、身を震わせるばかりで動き出す気配を見せない。最後の力を振り絞った一矢さえ容易く跳ね返されてしまったことで、挫けまいと抗い続けてきた心が、とうとう折られてしまったのだ。
もう、彼女は立ち上がることはできない。全ての支えを、崩されてしまったのだから。
「……わ、たく、しは……」
彼女の視線の先では、床に突き刺さった王家の剣が輝いていた。失意の底に沈み行く彼女を、見下ろすかのように。
その視界がぼやけ、景色が歪んだ時。彼女はようやく、自分が泣いていることに気付くのだった。
「なんの、ために……!」
夢も希望も平和もない未来。力無き者が受ける屈辱の洗礼。
逃れようのない事実だけが、彼女の目の前に残された。
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