第一章 邂逅のブロンズソード
第6話 小さな騎士ローク
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だが、ババルオにそれを気にしている様子はない。ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべつつ、恭しく頭を下げるのみだった。
その様子と物言いを訝しむダイアン姫は、不穏な空気を肌で感じ取り、眉を顰める。
だが、いくら思案したところで、今すぐ答えが出るわけではない。気にしたところで、仕方ないのか――彼女が、そう判断しかけた時。
「……ッ!?」
彼女の視界が、一瞬だけ揺らぐ。
ほんの僅か。意識して気付けるか気付けないか。その程度の小さな揺れを、彼女は敏感に感じていた。
(――い、ま、のは)
揺れていたのは――地面。正しくは、闘技舞台。
それが意味するものを頭で考えるより速く、彼女は後ろを振り返り……刹那。
「――っ!?」
「さすがはダイアン姫。優れた感性をお持ちのようだ」
先程とは比にならない振動に、彼女の警戒心が最高潮に緊張する。
その地響きの震源――人間のものとは思えぬほどに大きな足が、闘技舞台の床に踏み込まれる瞬間。足元を通してダイアン姫の全身に、さらに強烈な衝撃が突き刺さるのだった。
その振動を浴びた彼女が、その巨大な足から上を見上げた先には――全身を赤い鎧に包み込み、人間の身長並みの直径を持つ鉄球で武装した、色黒の大男が立ちはだかっていた。
この男。常にババルオに付き従っていたこの男を、ダイアン姫は知っている。自分を邪な眼差しで見下ろしている、この男を。
「アンジャルノン、殿……」
「私を覚えて下さったとは、光栄の極みでございますな姫様。その栄誉に応えるべく、私も全身全霊を込めて参りましょう」
帝国軍人アンジャルノン。
六年前の戦争にも参加していたという剛の者。ババルオに仕える、帝国兵達の実質的なリーダー。過去に多くの略奪を繰り返し、女を喰い物にしていたという噂がある好色漢。
その程度の情報しか把握していないダイアン姫でも、明確に理解していることがある。
――今まで戦ってきた相手とは、比べものにならない強さであること。
そして、この戦いに負けた時。自分が、女として大切なものの全てを、奪われることを。
「……いいでしょう。望むところです」
「なんと健気で、美しく勇敢な方だ。私の部下共にも見習わせたいものですな」
それでも、立ち向かわねばならない。精一杯の虚勢を張って。
せめて、民に涙を見せないように。
その決意が、柄を握る手に注がれ――ダイアン姫が持つ王家の剣が、太陽を浴びてまばゆい煌めきを放つ。
彼女が戦闘態勢に入るまでを見届けたアンジャルノンは、それに続くように鉄球を構える。
素人目にもわかる。今までとは格が違う戦い。その幕が上がる瞬間を前に、観衆は固唾を飲んで静まり返っていた。
「ル、ルーケンさん。ダイ
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