第一章 邂逅のブロンズソード
第6話 小さな騎士ローク
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中には、王国の国旗を振ってダイアン姫を讃える観客もいた。そんな彼らの眼前に――とうとう、その熱狂の源泉である張本人が現れた。
新緑の軽鎧を纏う、一輪の華。
風に靡く、ブロンドの髪。
その姿を民衆が認める瞬間、観衆の興奮はさらに激しく、大きく膨れ上がる。
「ひ、ひめさまっ!」
すると――溢れんばかりの、その熱狂の波に流されるように。
町に住む幼い少女が、色とりどりの花々で造られた花飾りを持って姫騎士の前に現れた。どうやら、ダイアン姫の応援のために持参してきたらしい。
「あ、あの……これ……!」
「――ありがとう。あなたのためにも、必ず勝ってみせますわ」
「……はいっ!」
たどたどしい彼女の様子に笑みを浮かべ――ダイアン姫はその花飾りを受け取り、鎧の中にしまい込む。この戦いで、傷物にしないために。
一方、丹精込めて作った一作が王女の手に届いたことに、少女は弾けるように喜んでいる。……その笑顔は、姫騎士に戦場へ踏み込む勇気を与えるのだった。
「……はッ!」
短く気勢を張り上げ、軽やかに跳び上がる姫君。
彼女のしなやかな身体が、屋敷前に造られた闘技舞台の上に舞い降り――瞬く間に、王国の紋章が描かれた盾から、煌びやかな直剣が引き抜かれるのだった。
その切っ先が太陽の光を浴び、煌煌と輝く。彼女の一挙一動に注目していた民衆は、その剣が纏う凛々しさに絶対の勝利を期待するのだった。
「ダイアン姫ぇーッ!」
「姫様ぁ〜ッ! いつも以上に凛々しいお姿ですぞ〜ッ!」
ハンナとルーケンもその例に漏れず、無我夢中でダイアン姫にエールを送っている。ダイアン姫自身も、それに応えるように華やかな笑みを浮かべていた。
「……」
――だが。
その中でただ一人、ダタッツだけは。
(彼女は強い。観衆の勢いもある。だけど……)
場の流れに馴染まない、神妙な面持ちを浮かべていた。その眼差しは、ダイアン姫の表情へと向かっている。
恐れと涙を覆い隠し、覚悟という石膏で全てを塗り固めた、彼女の表情へと。
だが、彼女自身は気づいてはいない。自身の胸中に渦巻く感情が、観衆の一人に看破されていることに。
「おおぉ……! なんと気高く、凛々しいお姿! 何度拝見しても素晴らしい限りでありますなぁ!」
「……ババルオ様」
闘技舞台を見下ろせるバルコニーから、姫騎士の勇姿を讃えるババルオ。頭上に立つ諸悪の根源に向け、ダイアン姫は警戒した視線を送る。
「此の度も是非、その麗しき剣技を拝見したいものです」
「相手がまだ来られていないようですが」
「……申し訳ありません。少々、準備に時間の掛かる男でして。しかし、そろそろそれも終わる頃でしょう」
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