第一章 邂逅のブロンズソード
第5話 姫騎士の追憶
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見つめていた。
頭そのものは無事であったが、兜を割られた衝撃に脳を揺さぶられては、もう立ってはいられない。その一撃が生む衝撃音を耳にした他の帝国兵達は、彼女の強さをその時になってようやく理解するのだった。
「この女ッ……!」
「いい気になりやがってッ!」
それを悟り、微かな間を置いて帝国兵達の脳裏を過ったのは、戦意。自分達を害する敵を排除しようという、生物としてごく当たり前の感情だった。
その本能の赴くままに、帝国兵達は剣を抜いて姫騎士に襲い掛かっていく。一対多数の戦いは心得ていない彼女は、冷や汗を頬に伝わせ――柄を握りしめた。
(怖い……! けど、わたくしがやるしか!)
精一杯の勇気を振るうため――そして、その奥底から悲鳴を上げる、恐怖心を封じるために。
しかし、帝国兵達とダイアン姫の距離が詰まる瞬間。
「よさぬか無礼者共!」
「……!?」
戦場になりかけていた路地に、鶴の一声が上がるのだった。
双方が視線を向けた先に立っていた、肥え太った醜男と――その背後に控えている巨漢。その姿を目の当たりにした帝国兵達は、顔面から一切の血の気を失い、即座に膝を着く。
決して逆らってはならない、絶対の存在を前にした人間の対応であった。
「もも、申し訳ありませんババルオ様!」
「こ、この小娘がいきなり……!」
「貴様ら、このお方をどなたと心得る! この王国の由緒正しき血統を継いでおられる、ダイアン姫様であるぞ!」
「んなぁ……っ!? ひ、姫って……!」
その絶対の存在――ババルオにより、ようやく姫騎士の正体を知った帝国兵達は、驚愕のあまり目を剥くと大慌てで彼女に膝を着くのだった。
「た、たた……大変ご無礼を……!」
「……」
必死に頭を床にすり付け、一転して許しを乞う帝国兵達。そんな彼らの様子を冷ややかに見つめるダイアン姫は、その目線を彼らの上役であるババルオへ注ぐ。
その視線を浴びてなお、ババルオは焦りを見せることなく、恭しく頭を垂れていた。後方に控えていた巨漢――アンジャルノンも同様の対応を見せている。
「……私の配下が大変失礼致しました。こうしてお会いになるのは初めてになりますな、ダイアン姫」
「――敗戦国になろうとも、民が私の宝であることには変わりありません。今後もこのようなことばかりが続くのであれば、わたくしもこの剣を振るわざるを得ませんよ」
「おぉ……なんと頼もしい。帝国軍の誇りを忘れた、猿のような兵ばかりで私も手を焼いていたところなのですよ。そちらのお嬢様のような美女を前にすると、いつもこうなのです」
襲われていた町娘の肩に、アンジャルノンがそっと毛布をかける。その感触を経て、ようやく自身に迫る危機が去ったのだと実感した彼女は、
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