第一章 邂逅のブロンズソード
第4話 ハンナの恋
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そうやって飲み方を試行錯誤している彼の横顔を、彼女は苦笑いを浮かべて見守っていた。
「……んっ、んん?」
「ふふっ、ダタッツさんたらホントに不器用なんだから」
「す、すみません。なるべく早く直しますから」
「大丈夫なのかな〜?」
「大丈夫ですってば!」
頬杖をついて微笑むハンナに対して、ダタッツは頬を赤くして反論する。その姿を、彼女は懐かしむように見つめていた。
「……ルーケンさんが言ってた通り。本当によく似てるのね、お兄ちゃんに」
「お兄ちゃん?」
「うん。ほら、前にルーケンさんが話してたでしょ。ダタッツさんと同い年の息子がいた――って」
「……!」
ハンナが何を思って自分を見つめていたのか。それを悟ったダタッツは、唇をきつく噛みしめる。
その様子を見遣る彼女は、少しだけ寂しげな表情を滲ませていた。
「……大丈夫。そんな顔しないで。さすがに六年も経ったんだもん、そこまでメソメソしてないよ」
「――そうでしょうか」
「うん。お兄ちゃんもきっと、生きて帰ってくれてたら……ダタッツさんみたいに助けようとしてくれたと思うの。不器用なところもお人好しなところも、本当にそっくりだから。――まぁ、お兄ちゃんほど悪戯好きじゃなさそうだけど?」
「あ、あはは……」
だが、重い空気にさせないためか、彼女は一転してからかうように笑みを浮かべる。それに釣られてダタッツも、苦笑いするようになっていた。
――その中で彼は確かに、実感していた。これが、ハンナという少女の持つ優しさなのだと。
「だから……何があっても、ダタッツさんは死なないこと。いいわね?」
「……はい、わかりました」
自分の胸を小突く、彼女の小さな拳。その温もりが、ダタッツの胸中へと深く染み付いて行く。
「それでよし。じゃ、明日は店もお休みだし、一緒にダイアン姫の親善試合見に行こうよ。景気付けに!」
「ええ。ジブンも一度、見てみたいと思ってたんです」
「でしょでしょ! じゃあ、今日は早く寝ないとね。大事な日なんだから、寝坊しちゃダメよ!」
「はは、了解しました」
ハンナは軽くウインクすると、飲み干されたコーヒーカップを手にテーブルを立ち去って行く。その背中を見つめるダタッツの目は、彼女自身ではなく――その先にある何かを、見据えているようだった。
――ルーケンが、窓の外から覗いていたのである。ニヤニヤと、嫌らしく口元を吊り上げて。
「お熱いねぇ、相変わらず」
「んなっ!? ち、ちっが〜う!」
それに気づいたハンナが、お決まりのリアクションを見せている頃。ダタッツはふと、明日の親善試合のことを思案していた。
思い浮かべているのは――主催者の名。
(帝国貴族のババルオ……か)
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