第一章 邂逅のブロンズソード
第4話 ハンナの恋
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若者達は、泣く泣く店を去り――再び料亭に平穏が戻るのだった。
そして、その夜……頭に包帯を巻いたダタッツが、散らかった床を掃除していた時のこと。
「ね、ダタッツさん。頭の怪我、どう?」
「あっ、ハンナさんお疲れ様です。おかげさまで、随分と良くなりましたよ。ルーケンさんは?」
「ルーケンさんならゴミ捨てに行っちゃったよ。それにしても、大したことなくて良かったぁ……」
「ええ、ハンナさんのおかげですよ。ありがとうございます」
「だけど、あんまり無理しちゃダメよ。あとは私が片付けとくから、ダタッツさんはもう休んでて」
「いえ、ジブンは全然平気ですから。こうしてお世話になっていることですし、もう少し手伝わせてください」
「……」
厨房の皿洗いを終えたハンナが、不安げな面持ちでダタッツの側に歩み寄っていた。彼女の手当てを受けた彼は、その心配を他所に笑顔を浮かべ、働き続けている。
「……私が休めって言ったら休みなさい! 上司としての命令ですっ!」
「わっ!?」
そんな彼に業を煮やしたハンナは、爪先立ちになってダタッツの両肩を掴むと、無理矢理に椅子へ座らせてしまった。彼女の行動に抵抗する間も無く、ダタッツの腰は最寄の椅子に沈み込んでしまう。
間髪入れず、ハンナは彼から箒をひったくり、掃除を再開していく。彼女の迅速かつ強引な手段に翻弄されるダタッツは、唖然とした表情で彼女の背中を見つめていた。
「あ、あの……」
「私がいいって言うまで席は立たないこと! いいわね!」
「は、はい!」
「……よし」
さらに振り向きざまに釘を刺され、彼はその椅子から動けなくなってしまう。そんな彼の様子を一瞥した彼女は、深く頷くと箒がけの作業へと戻っていく。
そうしてダタッツの仕事を強奪した彼女は、手際よく隙間の埃や汚れを掃き出していくのだった。
やがてダタッツよりも遥かに速いペースで掃除を済ませた彼女は、息つく暇もなくコーヒーを淹れて戻って来た。
二つのカップを手早くテーブルに置き、ダタッツの隣の椅子に腰を掛け――ようやくガスを抜くように息を吐いたのである。
「ふぅ〜……。終わった終わった」
「……ホントに手慣れているのですね。お見事でした」
「べ、別にこんなの特別なことじゃないわよ。ダタッツさんが大袈裟過ぎるの」
「だとしても、ありがたいのは本当です。それにコーヒーまで淹れて頂けて……」
「私が飲みたかったから淹れただけよ」
ハンナは憑き物が取れたような表情でカップを手に取り、穏やかにコーヒーを口にする。その様子を見届けてから、彼女に続くようにダタッツもカップへ手を伸ばしていた。
ただ、ハンナのように静かに飲むことは出来ておらず、度々ズルズルと音を立てては眉を顰めている。
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