暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第一章 邂逅のブロンズソード
第4話 ハンナの恋
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を運んで行く。そんな彼の姿を、若い男性客達は嫉妬心を滲ませた表情で見つめていた。

「おい、なんだよアイツ。あんな奴ここで働いてたか?」
「十日くらい前に入ってきた新人だよ。旅人だったらしいけど、帝国兵の連中からハンナちゃんを庇った縁で就職したって話だぜ」
「けっ、庇うだけなら誰にでも出来るっつーの。ちょっと顔がいいからって、調子こいてハンナちゃんに近寄りやがって」

 そんな彼らの険しい表情に気づかぬまま、ダタッツはぎこちない動きで食事を運んでいる。一方、歳を重ねた常連客は若い男性客達とは違い、大らかに笑いながらダタッツを見守っていた。

「ハッハッハ! 頼りねぇなぁ兄ちゃん! もっとキリキリ働かなくちゃダメだぞ!」
「は、は、はいっ!」
「おーいあんちゃん、ビールおかわりまだなのかい!?」
「す、すみません! すぐに――」
「――だぁかぁらぁ! おじさんはもう飲んじゃダメだってば! ダタッツさんを振り回すのはやめてっ!」
「うひょっ、恋する乙女は大変だねぇ。彼氏のために毎日大わらわ!」
「うるさ〜い!」

 常連客達が新人のダタッツをおちょくり、それを注意するハンナをからかう。そんな光景を、ルーケンが微笑ましげに見つめる。
 それが――この数日間、料亭で絶え間無く繰り返されるやり取りであった。

 加えてハンナ自身が、怒りながらもダタッツへの好意を否定しなかった部分も、常連客の煽りに燃料をくべる結果を招いている。そうなってしまえば、弄られないはずがないだろうに。

「……おい新入りぃ! こっちの皿下げてけよ!」
「はいっ! た、ただいま!」

 ――そして。そんな光景を見せつけられて、苛立ちを募らせたのか。
 若い男性客達のうちの一人が、声を荒げてダタッツを指名する。その声を背中に浴びた彼は驚くように飛び跳ねると、緊張した表情で若者達のテーブルに向かった。

「で、ではお下げしますね……」
「なにチンタラしてんだ、さっさとしろよ!」
「は、はい!」

 ダタッツはたどたどしい手つきではありながらも、一つずつ丁寧に皿を重ねて行く。しかし若者達は、そのゆっくりとした動作に怒りをぶつけていた。
 それを受けて、ダタッツは「チンタラしている」ことだけが理由とは思えない苛立ちに戸惑いながらも、せっせと皿を回収してテーブルを離れようとする。

 ――が。

「ふいっちっ!?」

 突然、ダタッツはつんのめるように前に倒れ、顔面から床に激突してしまった。さらに、その後頭部に重ねた皿が墜落してしまったのである。
 そこを中心に、重なった皿が破片となって飛び散ってしまうのだった。

「ダタッツさん!? 大丈夫っ!?」
「お、おいおい兄ちゃん大丈夫かよっ! 怪我しちまったんじゃねぇか!?」

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