第一章 邂逅のブロンズソード
第3話 城下町の料亭
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王宮を囲うように造られた城下町は、緑豊かで活気に溢れた街である。この街が戦場となる前に終戦協定が結ばれたため、帝国との戦争に敗れ属国となった今でも、街の美しさは健在であった。
しかし帝国兵が常駐するようになってから、人々は彼らの横暴に怯える日を送っている。彼らに敵わない立場であることから、王国騎士団の機能が麻痺していることも大きい。
しかしただ一人、帝国兵に物怖じせず、毅然と対応できる騎士が今も居るのだという。
かつて最期まで王国の未来のために戦い続けたと言われている、アイラックス将軍。その血を引く娘が、敗戦国となった今でも父に代わり、帝国兵の狼藉に抗していたらしい。
今は帝国の要請に応じて剣の出稽古に赴いているが――王国に帰ってくる日も近いのだという。
そのアイラックスの娘から手解きを受けた王女ダイアンも、萎縮している騎士団に代わり街の治安維持に力を注いでいるのだ。
敗戦により生じる責任に追い詰められた国王は大病を患い、王妃はその心労によりこの世を去った。ダイアンにとって騎士の一人として戦うことは、妻を失い床に伏せた父を励ます意味もあったのである。
――そう。彼女もまた、アイラックスの背中を見て育った一人なのだ。
本来ならば王族が選ぶべき道ではなかっただろう。しかし若い彼女に他の道程を探すことは出来ず、それを教える者も現れなかったのだ。
帝国兵を恐れない。そんな人間自体が、希少だったのだから。
「そうだったんですか……。ジブンとしては、そんな大したことをしたつもりはなかったんですけどね」
「それが大したことなんだよ。ハンナが連れ去られそうになった時はどうなることかと思ったが……君が時間を稼いでくれたおかげで、姫様が駆け付けて来て下さった。君には本当に感謝してるよ」
――あの後、地面に突き刺さっていた男は町民の尽力により無事に引っこ抜かれ、今は看板娘を助けるために立ち向かってくれたお礼として、ルーケンが経営する料亭で食事を摂っている。
従業員用ベッドで一泊サービスという、豪華なおまけ付きで。
ルーケンは鼻頭を覆う包帯を撫でながら、大量のメニューを平らげていく男を微笑ましげに見つめていた。……どこか、遠くを見ているような目で。
そんな彼の表情を不思議に思いつつ、男は咀嚼していたパンを飲み込むと、静かに口を開く。
「……ダイアン姫かぁ。あんなにお若いのに、国民のことをそこまでして守ろうとするなんて……凄いですよね」
「ああ全くだ。欲に目が眩んで殺戮に手を染めた帝国勇者には、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいよ」
「……ええ、まぁ、そうですね。全くその通りです」
自慢げに語るルーケンに対し、男の表情は固い。気まずい話題に触れてしまったかのように、その視線はあらぬ方向
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