第一章 邂逅のブロンズソード
第3話 城下町の料亭
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国兵の略奪が横行する無法地帯となっていただろう。王国が正真正銘の属国となっていたなら、帝国兵達はダイアン姫にすら襲い掛かっていた。
王国の監視を任されている上流貴族であるババルオは、戦後間も無く帝国兵達を統括する立場となり、六年以上に渡りこの屋敷に居座り続けている。
彼が自らその任務に志願し、この城下町に居着いている理由の一つは、ダイアン姫にあった。
「アイラックスの娘がおらぬ今なら、小娘一人を堕とすことなど容易い。儂の妻として、たっぷりと仕込んでやるわい」
「……親善試合の準備は万全。楽しみですなぁ、ババルオ様」
「親善試合で『不覚を取り』、傷付いた姫君を『不思議な薬』で献身的に治療した儂に、美しき姫は『心を奪われ』めでたく結婚。アイラックスの娘が帰る頃には、儂は新国王となっている。……そしてあの娘も妾として、次代の王族を身籠ることになる」
隠すことなく獣欲を滾らせた瞳で、ババルオは王宮を射抜く。野望を語る彼の膨らんだ口元は、歪に吊り上がっていた。
アイラックスの娘――ヴィクトリアは帝国人を非常に毛嫌いしている。
それは帝国が父の仇である以上、当然のことなのだが……王国に居座り、敗戦国の街となった城下町を牛耳るババルオに対する嫌悪感は、一際強かったのだ。
しかし、その憎しみが込められた視線を浴びせられていたババルオは怒るどころか――興奮すらしていた。
この強気な娘を屈服させて、自分の為すがままにすれば、どれほど満たされるか。皇帝さえ賞賛した、王国の誇りであるアイラックスの娘を我が物にすれば、どれほどの征服感が得られるのか。
その期待が、ババルオの衝動をさらに駆り立てていたのだ。
「そうなれば、この国の生殺与奪の全てはババルオ様のもの。もはや、誰にも止められませんな」
「そうとも。だいたい儂は、属国に成り下がった王国如きに気を遣わなくちゃならん今の状況が、何より気に食わんのだ。何が敬意だ……敗者はどれほど立派に戦おうが、負けたからには敗者に過ぎんのだぞ!」
すると、彼は厭らしい嗤いから一転し――憤怒の形相で机を殴りつけた。その衝撃で、部屋を照らすロウソクの炎が大きく揺れる。
「仰る通りですな。勝者が敗者から何もかも奪い尽くすのは、当然のことでしょうに」
「全くだ! 数千年、それこそ『魔王』を倒すために『勇者』が召喚された伝説が始まる以前から、長きに渡って帝国はそうして栄えてきたというのに! 何が敬意だ、何が見事な奮戦だ!」
「ええ、ええ、その通りですとも。そのためにも今回の計画で、ダイアン姫を必ず手中に収めましょうぞ」
「無論だ! そのためにわざわざ姫君の油断を誘うため、貧弱な傭兵ばかりを充てがって来たのだからな。アンジャルノン、ぬかるなよ」
「承知しております」
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