第一章 邂逅のブロンズソード
第3話 城下町の料亭
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ったとしても。民を守る一助となってくれる可能性が、ほんのわずかでも有るのならば、自分はそこに縋るしかないのである。
栄えある帝国騎士の身分を捨てて、敗戦国の王国に寝返るメリットが皆無であるとしても。彼の身の上を、全く知らない状況であるとしても……。
「失礼します……お父様」
「……おお、ダイアンか。聞いたぞ、今日も民のために……よく、働いてくれたようだ、な……ご、ごほっ!」
「あ、あまり力を入れて喋ってはなりません! ほんの少し、ご挨拶をさせて頂くだけですから……!」
「す、すまん……世話をかける」
「いえ……これくらいしか、わたくしには……」
「ダイアン……」
目の前で苦しむ父に……帝国に蹂躙される民がいない、平和な王国の姿を見せるには。誰であろうと、助けを乞うていくしかないのだ。
父の幸せ。それがダイアン姫が望む、ただ一つの願いなのだから。
(お願い……誰か。誰でもいいから。お父様を……わたくし達を、助けて……!)
……一方。王宮から少し離れた場所にある、豪勢な屋敷では――
「ババルオ様、またしてもダイアン姫が我らに邪魔立てしたようですぞ」
「ほう、またか。随分とまぁ、気丈な小娘だな。――だからこそ、堕としがいもあるというものだが」
――二人の醜悪な男が、薄暗い一室の中で会談していた。
ババルオと呼ばれる、肥え太った髭面の男は、帝国製の煌びやかな装束に身を包んでいるが……その装束が泣き出しかねないほどの醜い顔の持ち主でもあった。
鼻は豚のように低く丸く、唇はでっぷりと太く前面に突き出ており、贅肉のあまり首は胴体とほぼ一体化してしまっている。繋がった太眉の下にある細い目は、窓から伺える王宮に向かっていた。
「今頃、ダイアン姫は夜の湯浴みに向かっているのだろうな。くく、もうじきその肢体を儂が洗ってやるようになるのかと思うと、興奮が収まらんわい」
「ええ……全くですな。して、いかがされますか? 女を引っ掛けようとしては邪魔されてばかりで、兵達も苛立っているようですが」
「敗戦国の小娘とはいえ、れっきとした王族の一人だからな。皇帝陛下がお気に召しているアイラックス将軍の娘もいることだし、今まで簡単に手出しはできなかった――が、それも終わりだ」
強大な帝国を相手に五年以上も善戦した名将として、アイラックスの名は帝国にも轟いている。敵ながら見事な手腕であるとして、戦後に皇帝がアイラックスの奮戦を讃えたのは有名な話であった。
そういった背景もあり、属国という形になった王国の人間に対しても、帝国人は敬意を持って接するように――と、帝国軍上層部からの勧告も行われたのだが……末端の帝国兵には、そんな意識はほとんどないのが実状である。
だが、それでも件の勧告がなければ、王国は帝
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