第一章 邂逅のブロンズソード
第3話 城下町の料亭
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ダタッツさん、ホントにただの旅人なの?」
「見ての通り、ただの旅人です」
緊迫感から解き放たれた瞬間、ルーケン達は溜め込んだ息を吐き出す勢いで、互いに言葉を交わし合う。
そんな中、興奮している二人を尻目に、ダタッツはダイアン姫が去った後の扉を静かに見つめていた。
一方、その頃のダイアン姫は。
(ダタッツ様のあの佇まい……それに、あの剣の立て方……。あれは騎士が高位の貴族や王族に接する際に使う、最も丁寧な礼法の一つですわ)
夜道を徘徊する帝国兵達に睨みを利かせながら、王宮への帰路についていた。自分の胸と臀部に向けられる、帝国兵達の劣情の視線には気付かないまま。
(……少なくとも、傭兵稼業で身につくものではありませんね。恐らくは元騎士か、騎士の家系の出身か……)
彼女の白い足が石畳を踏む度に、ダイアン姫の栗色の髪がふわりと揺れる。その艶やかな香りは、風に乗って城下町の街道へと流れていた。
騎士の礼法。その基本形は万国共通であるが、国ごとに細部が異なる場合が多い。騎士の礼法にお国柄が出る、と言ってもいいだろう。
ゆえに最も丁寧で原型に近い礼法を習得している騎士は少なく、今では王族と接する機会を持つ上流騎士くらいしか把握できていないのが現状なのだ。
その「原型に近い礼法」を、ダタッツは完璧にこなしていた。彼の実態を思案するダイアン姫は指先を唇に当て、さらに考え込む。
王宮の目前まで来ても、それは続いていた。
(しかし、我が国にはあの人を除いて、黒髪の騎士などいない……。帝国出身の元騎士だとするなら、この街の駐屯兵を恐れなかったことにも説明が付きますが……)
門番の敬礼にすら気付かないまま、彼女は王宮の中へと進んで行き――とうとう、国王が眠る寝室前に辿り着く。
就寝前に病床に伏した父の元へ向かうのが、日課になっているのだ。無意識でも、そこに足を運んでしまう程に。
(上流騎士が身分を捨てて……あるいは隠して、なぜこの国に……? 権威はおろか碌な武器も携えないで、勝者の立場にある人間が、なぜ……?)
その入り口となる扉に手を当てたところで……ダイアン姫は、一旦思考を断ち切る。
父と会う最中に余計な考え事をしていてはいけない、という理性が働いたのだ。
(……ただ何にせよヴィクトリアが居ない今、この街に駐屯している帝国側が強引な手段に出ても、わたくし一人では民を守り切ることができない……。せめて味方であって欲しいと、祈る他ありません)
帝国の侵略が原因で母を失った身である彼女にとって、帝国出身の疑いがある人間を頼るのは、本意ではない。しかし、個人の感情で敵をいたずらに増やすわけにはいかない。今は、その考えの方が強いのだ。
それに、例え憎い帝国の人間だ
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