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ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第一章 邂逅のブロンズソード
第3話 城下町の料亭
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へ泳いでいる。

「しかし、よく食べるねぇ君は。やはりあんなに激しく動ける体となると、それくらい食べなきゃ持たないものなのかな」
「あ、す、すみません。遠慮も知らずにこんなにたくさん……」
「いいんだいいんだ、気にしなくて。年頃の男はたらふく食ってなくちゃな」

 ルーケンはそんな男の様子に気づかぬまま、気さくに話を続けている。すでに夜の帳が下り、営業は終了している時間帯だが、そんなことはお構いなしのようだ。

 ――本来ならば、あのような動きは武人を基準にしても「激しく動ける」で片付くレベルではないのだが……戦士の世界に疎い民間人である彼らは、「そういうもの」で納得してしまっているらしい。
 一部始終を見ていた町の通行人も、曲芸のようなものとして男のジャンプを見ていたのである。

「ところで君……ええと……」
「ダタッツです」
「そうそう、ダタッツ君。随分珍しい名前だけど、どこから来たんだい? 見たところ、ハンナに近い年頃のように見えるが……」
「……とにかく、遠いところからですよ。歳は十九歳です」
「十九歳。そうか、十九歳か……」

 その数字を聞き、ルーケンは腕を組んで黙り込んでしまう。ダタッツと名乗る男は、何事かとその顔色を伺っていた。

「あの、どうかしました?」
「いやなに。前の戦争で死んだ息子が、生きていれば今頃それくらいの年になってたんだよ。昔から札付きの悪ガキだったんだが、情には熱い奴でな。帝国が許せないって一心だけで、俺の言うことも聞かないで少年兵に志願したんだ」
「……」
「孤児のハンナにとっちゃ、頼れる兄貴分でもあった。俺には一言も話さなかったが――多分、ハンナがいるこの街を守りたかったんだろうな」

 あのウェイトレスの少女――ハンナが、ルーケンの料亭に拾われた孤児であることを、ダタッツは既に彼から聞き及んでいた。

 死んだルーケンの息子とハンナは、兄妹のように育ってきたのだろう。戦争がなければ、帝国勇者がいなければ、それは今でも続いていたのかも知れない。

 店の床を掃除をしながら、痛みに耐えるような面持ちで下を見つめる、残された彼女の姿がそれを物語っている。

 だからこそ彼は、帝国兵達に泣きついてでもハンナを救おうとしたのだろう。妻を早くに亡くし息子も失った今、自分の家族は彼女しかいないのだから。

「だから、俺は心から感謝してるんだ。その息子の想いごと、この街を守ってくれている姫様には」
「……そうだったんですか」
「……ハッハハ、辛気臭い話になってしまったな。ところで、この先の宿はどうするつもりなんだ? 当てのない旅を続けてる……とは聞いてるが」
「あまり長く滞在する予定はないんで、適当に野宿で済ませるつもりです」
「なら、当分はここに泊まるといい。
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