暁 〜小説投稿サイト〜
ダタッツ剣風 〜悪の勇者と奴隷の姫騎士〜
第一章 邂逅のブロンズソード
第1話 帝国勇者
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勇者と呼ばれるその存在を前に、恐れを知らず進撃していた王国軍が、この戦で初めて歩みを止めるのだった。

 アイラックスと同じ、黒曜石の色を湛える髪。強固な意志を持った眼差し。王国軍の鎧とも帝国軍の鎧とも違う、風変わりな形状を持つ漆塗りの甲冑。首に巻かれた、赤マフラー。
 そして――この世界でただ一つの、細身の片刃剣。王国兵の血に染まるその刀身を見つめ、アイラックスは眉を顰めた。

「あれが『勇者の剣』と『勇者の鎧』……。数百年前に異世界から召喚され、魔王を倒し世界を救ったという勇者の装備か……。先遣隊は、あの剣が持つ殺気に触れただけで気が狂うほどのプレッシャーを浴びせられたという話だが……」
「その神器を人間同士の戦争に使うとは、なんたる冒涜……! そしてそれに恭順する、あの帝国勇者はなんという愚か者なのだ……!」

 帝国勇者が纏う装備を見遣り、騎士団長は激しく憤る。強く握り締められたその拳からは、赤い雫が滴っていた。
 彼にとってのあるべき勇者の姿とは、それほどまでに掛け離れているのだ。血の雨を浴びた、今の帝国勇者の容貌は。

「……なんにせよ、現代の勇者が我々にとっての脅威であることに変わりはない。――私が一騎打ちに出向こう、兵達が勢いを削がれている」
「いえ、私が先に行きましょう。将軍に万一のことがあれば、王国軍は士気の大半を失います」
「騎士団長……」
「……お任せください。我が子に平和な王国を見せるためにも――私は、行かねばならぬのです」

 だが、兵達に勢いを取り戻すための一騎打ちに志願したのは、そんな私怨が原因ではない。そんなことでは、騎士団長など務まらない。
 彼が戦いに出向くことを決断させた最大の動機。それは、彼らが守るべき人々――掛け替えのない家族なのだ。

 そのためにこそ、彼は今、命を懸けている。「帝国勇者の戦い方」という敵情報を、少しでも多くアイラックスに伝え、この戦いに活路を見出すために。
 勝ち目のない戦いに、希望を齎すために。

「我こそは王国騎士団長ルーク! 帝国勇者殿に、一騎打ちを申し出たい!」
「……」

 勢いを殺され、膠着状態に陥った王国軍を掻き分け、騎馬に跨った二人の男が現れる。その二人――アイラックスと騎士団長ルークは、帝国勇者を一瞥し、この先に待ち受ける戦いの過酷さを予感していた。

 そして彼らが互いに頷き合い――ルークの騎馬が先陣に踏み込んだ瞬間。帝国勇者は彼の気迫に触れ、本能的に剣を構えるのだった。

「その剣の構え。一騎打ちの受諾と判断させて頂く!」
「……」
「――行くぞッ!」

 一触即発。そう形容できる剣呑な空気の中で、先に動いたのはルークの方だった。彼の騎馬は強烈な踏み込みで土埃を巻き上げ、帝国勇者目掛けて突進していく。


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