第2話 恥辱の姫君
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? 今日、あのバルタザールとやらを討ったように、地道に敵の戦力を削ぎ落とし、確実に勝てる時を待つべきではないか?」
「……なにがわかるのよ。あなたに、故郷も親も帝国勇者に奪われた私の、なにがわかるというの!」
そしてグーゼルは激情のままに、自分が座っていた椅子を蹴飛ばし――ダタッツの胸ぐらを掴み上げる。その行為に女性兵士達が短い悲鳴を上げる――が、掴まれている当人のダタッツは、表情を変えない。
怒りと悲しみを混ぜ込んだ彼女の瞳を、ただ静かに見つめている。
「帝国の侵略から逃れるために、遠い外国から来た母も。そんな母を助けるために尽力していた父も。同じく帝国に追われて、この国に辿り着いた人々も! 皆、帝国勇者に殺された! 今もそう! 私達がもたもたしてる分だけ、誰かが奴に殺される! だからその前に奴を殺す! もう手段なんて選んでられないの、他所者のあなたとは違ってね!」
「そのために、死んでも悔いはないと?」
「……ないわ。この国に平和が戻るのなら、私の命も魂も、神にくれてやる」
「殊勝なことだ。だが、その憎しみでは何も救えはせんぞ。君について来た反乱軍の勇士達も、助けを待つ街の人々も――そして、君自身も」
「――知った風な口を利くな!」
グーゼルはダタッツの言葉に激昂し、彼を椅子から突き飛ばす。中年の戦士はその勢いのまま尻餅をつくが、それでも顔色一つ変えないまま、立ち去って行く彼女の背を見送っていた。
そうして彼女がこの部屋を去り、乱暴に扉を閉じられた後。グーゼルの部下である女性兵士達が、甲斐甲斐しくダタッツを助け起こす。
「申し訳ありません、戦士様……。グーゼル様は数日前に、母君を奴らに処刑されたばかりで……」
「それに早く降伏しなければ、人質に取られている公女殿下を辱めると……」
「――なるほど。それで、ああも焦っていたのか」
合点がいったように、ダタッツは深く頷く。女性兵士達も、グーゼルの直情的な一面を案じている一方で、このままでは状況が厳しいと感じているようだった。
「だが……リスクが大き過ぎるのも事実。件の作戦には、自分も同行させて頂く。彼女には黙っておいてくれ」
「は……し、しかし……あなたを巻き添えになど……」
「気にすることはない。――『帝国勇者』とやらに、少し興味があってな。それに妻に先立たれ、子供達も独り立ちした今――隠居した老兵一人がどうなったところで、気にする者もいまい?」
自分を気にかける兵達を安心させるように、ダタッツは彼女らの肩を優しく撫でる。逞しい肉体を持つナイスミドルに触れられ、戦いばかりに生きてきて男慣れしていない彼女達は、揃って頬を赤らめた。
そんな彼女達の反応を尻目に、ダタッツは「帝国勇者」と名乗るマクシミリアンという男のことを考えていた―
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