第1話 想い人との別れ
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を案じるように、窓から満月の夜空を見上げる。
「……姫様は、あれからすっかり塞ぎ込んでしまわれた。昔から、責任感の強いお方であったからな……」
「グズッ……姫様、アダルバート坊っちゃまぁあ……」
「元気を出せ、デンホルム。お前のしたことは間違いではない。お前は、皆を守るために戦った。アダルバートは、姫を守る騎士の使命を全うした。それだけのことなのだから」
「アーサー様ぁぁあぁあ……!」
むせび泣く家臣を一瞥するアーサーは、部屋に閉じこもったまま出てこない姫君を案じ続けていた。――その時。
「……」
「ひ、姫様……!」
上の階から、足音が響いてきたかと思うと――淀んだ瞳を持つ少女が、覚束ない足取りでアーサー達の前に現れた。
変わり果てた姫の姿に、二人は胸を痛めるが――彼女の尋常ではない殺気に、目を奪われてもいた。
「……わたし、決めたわ」
「姫様、何を……?」
「わたし、強くなる。強くなって、あの猪を狩る――アダルバート様の、仇を討つ」
「な、なんですと!? 坊っちゃまの仇を……!?」
「む、無謀ですぞ姫様! すでにあのドスファンゴには討伐依頼を出しておりますゆえ、姫様が戦われる必要など……!」
「だめよ! そうしなくては……わたしは、自分を許せないッ! アダルバート様を殺したあいつは、絶対にわたしが殺す! 殺してやるッ……!」
「姫様……!」
幼い少女とは思えぬ殺気を迸らせ、彼女は拳を握り締める。白い珠の肌を持つ手の内から、鮮血が滴り落ちるが――その痛みすらも、気に留めていないようだった。
――こうして。とある小国の姫君である、クサンテ・ユベルブがハンターを志してから――十年の歳月が、過ぎるのだった。
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