暁 〜小説投稿サイト〜
艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第二十八話 犠牲の上に成り立つもの
[1/7]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
倒れ掛かった綾波の体を鳳翔は抱き留めた。小さく細く華奢な体だった。だが、その体が命を賭けて自分を護ったのだ。主砲弾が命中し、魚雷が爆発炸裂しても彼女は倒れず、鳳翔を守り抜きながら応戦し、自分一人で軽巡と駆逐艦数隻を倒したのだ。
「鳳翔さんは無事・・・・ですか?」
敵艦隊の最後の一隻が爆沈するのと同時に、倒れた綾波が真っ先に言った言葉は鳳翔を気遣ったものだった。
「どうして・・・・。」
鳳翔はもどかしかった。こんな言葉をかけている場合でもなく、またかけるならばもっと別の言葉をかけたかったのだが、今の彼女にはそう言うのが精いっぱいだった。
「無事なら・・・・良かったです。これで・・・・安心。」
「いいえ、いいえ!駄目です。しゃべらないで。今救援が――。」
鳳翔はもどかしく上空にいる直掩機に至急横須賀に救援を求めるように指令し、他の機には四方に展開させ、味方艦隊を探すように言った。
「今救援が来ます。それまで頑張ってください。絶対に助かりますから!」
「いいえ・・・・。」
綾波は傷ついた手を差し出した。血に汚れていたが鳳翔はそれをしっかりと握った。
「私はもう駄目です。自分の体ですから・・・・。」
綾波がせき込んだ。血が一筋彼女の口から流れでた。
「私がいなくなっても敷波や他の駆逐艦娘たちがいます。だから・・・いいんです。」
「何を言っているんですか!あなたの代わりなんて誰もいません!バカなこと言わないで!あなたの代わりに・・・私が死ねばよかった――。」
「鳳翔さんは、提督の秘書艦・・・・皆の大切なお姉様です。そのお姉様がいなくなれば・・・・皆は・・・っ!!」
激しくせき込んだ綾波の顔がすっと白くなる。
「鳳翔・・さん・・・どうか・・・無事・・・・・に――。」
握られていた手がすっと力を失い、鳳翔が手を放すと、だらっと下がった。綾波はかすかに笑みすらたたえたままの顔で動かない。
「・・・・・さん。」
うなだれた鳳翔が次の瞬間生まれて初めてと言っていいほどの大声で叫んだ。死者の魂を力づくで引き戻そうとするかのように。
「綾波さんっ!!!!」

 鳳翔は布団から起き上がった。ひどく汗ばんで肌着が湿っているのがわかる。
「夢・・・いいえ、現実の続きだったわ・・・・。」
鳳翔は額に手を当てた。
「私は・・・・・なんということを・・・・。」

 執務室にて、提督のモノローグ――。
先ほど結果を聞いた。輸送艦隊は8割が無事に入港したそうだ。だが、俺は喜べない。眠れない。ずっと机の前に座ったまま動けない。

 綾波が死んだ。

護衛艦として再後尾につき、輸送艦隊を、そして鳳翔を庇って死んだ。

 もう二度とアイツのおとなしく、それでいてとてもピュアな笑顔も見ることも、澄んだ穏やかな声も聞くこともできない。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ