暁 〜小説投稿サイト〜
艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第二十八話 犠牲の上に成り立つもの
[6/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
のだったが、それでも外で大勢で食べる食事は美味しい。鳳翔はおにぎりを手に持ちながらそう感じていたが、他方では綾波のことが頭から離れなかった。
(あの子はもう私たちと食事をすることも、もうできないというのに・・・・。)
こうしていること自体が悪なのではないかと鳳翔は思ってしまう。
「お口に会いませんか?少し、塩加減が間違ってしまったでしょうか?」
隣に座っていた紀伊が話しかけた。
「いいえ。ただ・・・・。」
鳳翔は言葉を濁したきり黙ってしまった。綾波と過ごした日々が一気に胸の中にあふれてきた。初めて出会った時のあの緊張した顔、初めての海戦で自分の腕の中で震え上がっていた綾波、その恐怖を知りながら厳しく鍛錬をつづけさせた自分。
徐々に綾波の練度が上がり、初めて敵深海棲艦を撃破した時、思わず綾波の手を取ってしまった自分。

 同じ艦隊に所属することは少なかったけれど、彼女と過ごした思い出は不思議なほどはっきりと思いだすことができたし、書き加えることができていた。だが、これからは思い出すことしかできない。そして時がたてばその思い出も風化してしまう。だとしたらいっそ――。
「生き残ることが罪だとそう思っていらっしゃるのなら・・・・・。」
鳳翔は顔を上げた。紀伊が鳳翔を見つめていた。灰色の眼には仲間を失った痛み、そしてひたむきさが溜まっていた。
「そのことは否定できません。でも、綾波さんはそれを望んでいらっしゃるでしょうか?」
「わかりませんが、彼女が死んで私は生き残った。そして彼女はもう何もできない。それは事実でしょう。」
「事実です。」
紀伊は否定しなかった。
「ですが、綾波さんが鳳翔さんを命懸けで守り抜こうとしたことも事実です。」
「・・・・・・。」
「月並みな言葉になってしまいますが・・・・。ここから推察できる綾波さんの想いは『生きてください。』ではないでしょうか?」
「生きて、ください・・・・。」
「はい。生きて生きて自分の分まで生き抜いてください、と。」
「生きる・・・・そうですか・・・・・。」
鳳翔はおにぎりを口にした。まだ暖かなご飯のぬくもりと、それを握ったであろう紀伊の手のぬくもりが感じられる。鳳翔はほうっとと息を吐いた。それとともに自分の思いの整理がついたかのように静かに話し出した。
「綾波さんが何を思っていらっしゃったかはわかりませんし、仲間が死に自分だけ生きるというのは気持ちの良いものではありません。」
ですが、と鳳翔は言葉をつづけた。
「今思いました。綾波さんが憔悴した私を見れば、何のために助けたのかとあの世で叱責するに決まっています。彼女のためにもしっかりしなくては。」
「そして、その重荷を自分だけで背負っちゃ嫌ですよ!」
いつのまにか葛城が来ていた。葛城だけではない。みんな鳳翔を囲んでい
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ