第二十八話 犠牲の上に成り立つもの
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けれど、と葵はかすかに笑いながら付け加えた。
「だからこそ時間をあげたい・・・ううん、違うわ。そんな上からの言い方ないよね。私は戦場にいなかったのだから・・・・。でもね、何かしないではいられないの。」
「・・・・・・・。」
「時間なんてこういう時にはいくらあっても足りない。でも私はそうせずにはいられない・・・・。」
最後はつぶやくようだった。
水葬が終わった後、軍令部からは各艦娘は当直を除き、1日の休暇を交代で取るようにとのお達しが出た。それを聞いた者のなかで喜びの声を上げるものはだれ一人いなかった。普段ならばそうだったかもしれない。だが、この時は全軍が麻痺したかのように無表情のままだった。
各艦娘たちはまるで自分の姿が見つかるのを恐れるかのように、三々五々散っていった。
「鳳翔さん。」
振り向いた鳳翔に紀伊が駆け寄ってくるのが見えた。
「紀伊さん。」
かつて最強と言われた空母艦娘の祖。その女性は顔色が優れなかったが、さすがに取り乱してはいなかった。
「なんでしょうか?」
「少しお時間をお借りしてもよろしいですか?」
「???」
「朝ご飯はまだでしょうか?」
「はい。ですが私は要りません。お気遣いいただかなくても大丈夫です。」
「そうですか・・・・。」
紀伊は残念そうな顔をしたので、鳳翔は水を向けた。
「何かありましたか?」
「いえ、ただ、お弁当を作ったので、よろしければ一緒にと思いました。」
お弁当?と鳳翔は聞きなれない単語を聞いたときのような反応を示した。綾波が死んで、こうして自分が生きているだけでも身を切り裂かれる思いなのに、まして食物をとることなど、考えられなかったのだ。
「こんな時に・・・・・。」
「こんな時だからです。」
紀伊の言葉に鳳翔の眼が見開かれた。
鳳翔は紀伊の顔を見、目を見た。そして手に持っていた風呂敷包みに目を止めた後、わずかに顔をほころばせた。
「では、ご厚意に甘えてよろしいですか?」
「はい。」
紀伊はうなずいた。
横須賀鎮守府裏手には小高い山があり、そこからは横須賀の市街地を見渡すことができる。山の中腹には小規模ながら滝が流れており、尽きることの知らない水音が初夏の空気をひいやりとさせていた。
紀伊と鳳翔が滝に到着すると、そこに待っていた艦娘たちがいる。
「瑞鶴さん!?翔鶴さん!?熊野さん!?鈴谷さん?!雪風さん?!榛名さん!?由良さん!?不知火さん!?照月さん!?伊勢さん!?日向さん!?それに、紀伊さんのご姉妹たちも、雲龍さん、天城さん、葛城さんたちも!」
皆は一斉にうなずいて見せた。
体と心は疲れていても、食事というものはそれらの疲れを多少なりとも取り去ってくれるものだ。おにぎり、漬物、魔法瓶にいれた味噌汁、卵焼き、竜田揚げという簡単なも
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