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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第二十八話 犠牲の上に成り立つもの
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報を聞き、すぐに横須賀に急行した。ほとんど眠っていないはずなのだ。だのに紀伊の眼にはビスマルクたちの疲労は感じられなかった。感じたのは疲労よりも深い虚無感。悲しみすらも顔には出ていない。
 それは自分も同じだった。皆も同じだった。一様な無表情。誰一人泣く者はいない。それだからこそ、深く大きな悲しみがそれぞれの胸の中で渦巻いているのだ。

 綾波の棺は海上に運ばれると、武蔵と陸奥、大和の肩から降ろされた。3人は海に棺を浮かべ、敬礼をした。全艦娘がそれに倣った。

 重しを付けられた棺は静かに海に沈んでいった。弔辞も何もない。だがいくら練り上げた言葉を並べ立てても上滑りするだけだろう。そんなものは無用なのだと誰もが思っていた。

「帰りたかっただろうな・・・・。」
紀伊の隣で讃岐がつぶやいた。
「きっと綾波さん・・・・呉鎮守府に帰りたかったんだと思う。こんなところで・・・・。」
「帰れるわ。」
紀伊は前を向いたまま答えた。
「綾波さんの身体はここにいるけれど、でも、綾波さんの心は私たちがしっかりと呉鎮守府に持って帰る。必ず。」
「紀伊姉様・・・・。」
讃岐は紀伊の手をぎゅっと握りしめた。


それからしばらくして後――。
「流石に今日は会議を開催する気が起こらないわ。皆には時間が必要よ。気持ちを整理する時間が。」
葵は資料を持ってきた大鳳にそう言った。
「はい・・・・。」
「ごめんね、あなたもこんなことをしている場合じゃないわよね。今日はもういいわよ。」
「いいえ、葵さんこそご無理をなさっては――。」
葵は首を振った。
「私ね。」
椅子に深く身を沈めながら葵は言った。
「前世の戦争の時、姉妹艦の初瀬、そして先輩の八島を失ったの。原因、なんだったと思う?」
大鳳が応えられずにいると、葵は吐き出すように言った。
「機雷よ。ただの機雷よ。」
「機雷・・・・。」
「敵の砲弾と戦ってならともかく、戦艦がそんな機雷ごときで沈められてどんな思いだったのかなって、今でも考えるの。彼女たちだけじゃないわ。あの時は軍艦同士でぶつかって沈んだ艦もあったし。でも・・・・。」
葵はぎゅっと椅子の肘掛をつかんだ。
「私は間違っていたのかも。どんな死だって死は死よ。そこで終わりなの。名誉な死、ましな死なんてないわ。少なくとも私にはそう思えない。その人の人生がそこで終わってしまうことに変わりはないのだから。そのことを今気づくなんて遅いのかもしれないけれどね。」
「・・・・・・。」
「悲しかったけれど、それでも必死に耐えて・・・・・先頭で頑張ったわ。それは東郷元帥も同じだったのかもしれない。でも、正直言うと私はあの時時間が欲しかった。整理するだけの時間が。たとえそれが十分じゃなくっても。」
あの人は無口だったからわからなかった
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