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艦隊これくしょん【幻の特務艦】
第二十八話 犠牲の上に成り立つもの
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紀伊には発すべき言葉も見つからなかった。
「高校生・・・・・そんな年で死ぬなんて・・・・・。」
瑞鶴がこらえきれないように両手で顔を覆った。
「明日・・・・いえ、もう今日ですか・・・・今日綾波さんの葬儀が執り行われるようです。遺体は慣習に従って水葬されると。文字通り・・・・海に帰るのですね・・・・。」
そうつぶやいた紀伊の髪を夜の風がそっとゆらした。悲しみが胸を満たしているというのに、そこには奇妙な安らぎさえあった。どうしようもなく思考が乱れ、何も考えられなくなった時に逃げ込める場所、と表現したらいいのか。
「ふざけてる!!」
不意に紀伊は自分の夢想から引き戻された。瑞鶴が立ち上がっていた。
「ふざけてるわ!!そう思わない!?私たちは艦娘よ。私たちは前世の戦艦や空母、重巡、軽巡、駆逐艦や潜水艦たちの生まれ変わりよ。でも、前世とは違う!!私たちは私たちなのに!!それがどうして水葬されなくてはならないの!?」
瑞鶴さん、と紀伊が呆然と見上げながらつぶやいた。
「私たちは、艦として扱われてるの!?つまり使い捨て!?上層部はそうやって私たちを捨て駒にしているのね!!」
「瑞鶴さん、お願いですから――。」
紀伊が止めようとしたが、瑞鶴は黙らなかった。
「今回の作戦だって、提督は後方にいるだけだったじゃない!イージス艦に乗り組んで前線で指揮をしてくれたってよかったのに!!そのイージス艦だって、私たちよりも内側に引っこんで、消極的な働きしかしなかったわ!!あれじゃあ――。」


「もうやめてくださいっ!!!」


引き絞るような叫びが瑞鶴の怒声を破った。瑞鶴も紀伊もベンチの右側を見た。

 榛名が泣いていた。体を震わせて、頬を伝う涙をぬぐおうともせず、声を震わせて泣いていた。
「どうして・・・・どうしてこんな時にまで誰かの非難をしなくてはならないんですか?私、そんなの嫌です!綾波さんが亡くなって・・・・仲間が亡くなっている時だというのに、誰かの非難の声を聴かなくちゃならないなんて、嫌です!私嫌です!!」
榛名は両手に顔をうずめた。
「榛名・・・・。」
瑞鶴は呆然としていたが、慌ててハンカチを差し出した。
「ごめん、私が悪かった。もう言わないから!ごめんね、本当に・・・・。」
榛名は激しく首を振ったが、顔をうずめたままだった。波音が優しく響く中、3人は長い事その場所にいた。

 翌朝。日の出と共に海軍軍令部要員及び艦娘たち総員が埠頭前の発着場付近に集結した。陸奥、大和、武蔵が棺を捧げ持ち、ゆっくりと艦娘たちの間を進んでいく。紀伊は艦列の中にあって、じっと装飾を施され、白布をかけられた白木の棺を見つめていた。

 反対側にはビスマルク達がいる。翔鶴や瑞鶴もいる。彼女たちは相模湾の海軍基地にたどり着いていたが、綾波の訃
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