第32話『凶気の科学者』
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部長の脇腹を捉えた。
「がっ…」
部長の悲痛な声が洩れる。
しかしその体を倒すことはしなかった。
今しがた殴り掛かったバランスの悪い体勢でありながら、両足でしっかりと踏み留まる。
・・・本当ならば、今の一撃で部長は勝てていた。相手が触れた瞬間に電気を流せばいいのだから。
でもそれは、茜原さんの拳を纏うゴム手袋によって、叶わないのであった。
「落ち着く暇はないのよ」
そう呟き、二度目の拳を放つ茜原さん。
これには流石に部長も反応、腕で防いだ。
まぁ、攻撃を受けた部長が少し退けぞったのは、彼女の力 故にだろう。なんてパワーだ。
攻撃を防いだ腕は役目を切り替え、退けぞる部長のバランス取りに専念する。
「残念」
だが、その隙を見逃さなかった茜原さんのストレートな腹蹴り。
防ぐことを放棄していた部長にとって、それは大ダメージを負う一撃となった。
「がはっ…!」
サッカーボールの様に軽く蹴飛ばされる部長。その躯は俺の横を通り抜け、壁へと激突する。
さっき聞いた音よりも、更に重い音が響いた。
「部長!」
「……大丈夫、まだやれる」
俺が声を掛けるも、部長は何事も無かったかのように立ち上がる。
…いや、腹を抑えていた。やはり深刻なダメージになってしまったらしい。額に汗を浮かべ、かなり辛そうである。
だが彼は、口角を下げることはしていなかった。
「三浦、お前は切り札だ。まだ手を出すな」
部長は俺に笑いかける。尤も、“笑う”というより“苦笑”に見えたが。
彼は前へ向き直り、再び一歩を踏み出す。先程と何ら変わりない光景だ。
部長が殴りかかり、茜原さんが避け、そして返り討ち。
ビデオを繰り返し再生するかの様に、それは淡々と行われていた。
──俺が切り札。
いや違う、そんなんじゃない。そもそも、俺で茜原さんに太刀打ちできるとは思えない。
…部長は必死に俺を守っている。
それ以外の理由では、俺は自分を納得させることができない。
現にこうして傍観していることが、理由の裏付けとなった。
先程示した「部長と共に戦う」という意志。
なのに、こうして後ろで出番を待つ。どう考えてもおかしい。
部長は俺に手を出させようとしてないのだ。少なくとも、自分が倒れるまでは。
いくら「一緒に戦いたい」と言っても、彼は口で了承するだけで、心からそれを肯定する事は無いだろう。
せっかく隣に立てたのに。
俺の決断はどこへ行ってしまったのか。
俺は部長と“一緒に”戦いたい。
仲間を守るのが部長の役目。
なら、それをサポートするのが『仲間』なはずだ。
部長が俺の参戦の隙を与えないなら、俺
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