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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百七十三話 誰がための忠誠
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らえよ!」

リヒテンラーデ侯の命令で逃げようとした男を憲兵が捕らえた。全く誰が仕組んだか知らないが、余程俺を殺したいらしい。もう少し後なら俺を殺せただろう、意識が朦朧として判断できなかったはずだ。

「へ、陛下、何故臣を庇ったのです? 何故逃げぬのです?」
口から血が出た、肺でもやられたか? それとも気管支か……。
「喋るでない、ヴァレンシュタイン」
「喋ってはならん」
フリードリヒ四世が、リヒテンラーデ侯が俺を止めようとする。でもな、痛くって喋ってないと悲鳴が出そうなんだ。

「陛下、お教えください」
「……予は皇帝じゃ、そちを見殺しにして逃げるべきだったやもしれぬ。それこそが皇帝として正しい姿であったろう」
「……」
呟くような口調だった。

「じゃが、予は凡庸な皇帝なのでな、皇帝としての正しい道など歩めぬ。ならばせめて人としては正しい道を歩んで見ようと思ったのじゃ」
「……」
俺もリヒテンラーデ侯も黙って聞いている。背中の痛みが酷くなってきた。

「イゼルローン失陥以来、予とそちは共に戦ってきた。戦友なのじゃ、ならば助け合うのは当然の事であろう」
この馬鹿、何を言っている。自分の言っている事が分かっているのか?

「良いものぞ、友を助けるとは。いつも助けられるばかりで助けた事など無かったが、これほどまでに心地良いものとは思わなんだ」
クソッタレが、これで死ねなくなったじゃないか。分かってんのか、ジジイ。俺が死んだら、その気持が無駄になってしまう……。畜生、痛くて涙が出てきた……。

「陛下は凡君などではありませぬ」
むせった。口から血が出るのが分かる。
「喋るでない!」

駄目だ、これだけは言わなければならない、畜生、目の前が霞む。俺は、俺が死んでもこの男の支えになる言葉を言わなければならない。世話の焼けるジジイだ。俺は何を言えばいい……。

「き、君が臣を護るから、し、臣は君を護るのです。へ、陛下こそ真の主君、臣は良き主君に巡り合えました。陛下に仕えし事、こ、後悔はしませぬ……」
「そうか、予は凡君ではないか。そうか……」

フリードリヒ四世が笑うのが聞こえた。泣き出しそうな声で笑っていた。顔は見えなかった……。



帝国暦 487年 12月 3日  ガイエスブルク要塞   オットー・フォン・ブラウンシュバイク


「それで、何の用だ」
「何の用とは、我等はお二方の御令嬢を取り返してきたのです。一言有ってもおかしくは有りますまい」

わしとリッテンハイム侯の目の前にランズベルク伯爵、ラートブルフ男爵、ヘルダー子爵、ホージンガー男爵がいる。この男達が我等の娘達を誘拐した。何を勘違いしたか、自分達は人質を取り返した英雄、反乱に参加する人間が増えているのも自分達が
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