第百十七話
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「クソッ……! クソッ……!」
息を咳ききって洞窟内を走る。そのHPはレッドゾーンに突入しており、妖精のアバターはどこもかしこも痛ましく欠損していた。しかし今の彼には、そんな風体に構っていられる暇はなかった。
「クソがッ!」
幾度となく吐かれる憎しみの感情が込められた言葉は、洞窟内に反響するのみで誰の耳にも届くことはない。洞窟の壁に思い切り拳をぶつけるものの、破壊付加オブジェクトの表示が出るのみだ。八つ当たりにもならないその壁に、男は思いっきり舌打ちした。
「ヘッ……」
しかし男は急に気をよくしたように、口角を上げてニヤリと笑う。遮二無二逃げてきたのが幸いしたか、どうやら男の追っ手はいないようだ。その洞窟内から脱出しようと、光が覗く横穴に向けて歩きだす。
――そうだ、まだ終わってなんかいない。こうして生き残ったのが何よりの証拠だ――と、男は思考の全てを次の案について巡らせていた。どうせこの世界ではいくら死のうが問題ないのだと、そう考えながら、まるで希望のような光の中に戻っていく。
「久しぶり……だろ?」
――しかしそこには、ある絶望が待っていた。逆光の影響で男は気づくことはなかったが、光の先にあるプレイヤーが立っていた。
男が着ていた白いポンチョならば、その真逆の色をした黒い服。同色の髪と目の色をして、二刀を鞘から抜きはなった、少年のアバターをしたプレイヤー――
「黒の……剣士ィ……!」
「……もうそいつは死んだんだよ。あの浮遊城と一緒にな」
ポンチョで姿を隠した男の地獄から轟くような憎しみの声に、《黒の剣士》――キリトはどこか寂しげに、哀れなように返答する。あの浮遊城の亡霊の1人であるプレイヤーキラーたちのリーダーに、引導を渡す義務があるとキリトは待ちかまえていたのだ。
「何言ってんだ……ここにあるじゃねぇか! あの浮遊城はよ!」
「終わったんだよ……この浮遊城は、あの頃とは違うんだ」
顔や姿をすっぽりと隠すポンチョと、格好だけはかの最強の殺人プレイヤーを思い出すが――もちろんあの人物ではなく、余裕をなくした男は激昂して叫ぶ。そして傷ついたポンチョはその姿を維持できず、ポリゴン片として消滅し男は姿を晒す。
「ジョニー・ブラック。お前はあの男にはなれないんだ」
あの《笑う棺桶》のナンバー2とも言うべき人物だが、他の幹部クラスとは違って幼さが目立っていた人物。アインクラッド時代から変わらぬアバターの筈だったが、その表情はキリトへの憎しみで醜く歪んでいた。
「テメェ……テメェが……!」
彼の目的は『PoHになること』だった。自分の傘下であるギルドを陰から操り、浮遊城という一つの世界を混乱に陥れ、自らもその混沌の中に踊る。そして歪
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