暁 〜小説投稿サイト〜
イノセントデヴィル
(一)歪んだ反抗
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[9] 最初
さっき、優香がここに座っていた。
お椀に指を入れて何かしていたような…。
見るとお椀の水に何かが浮いている。
顔を近づけた千鶴子が「ぎゃっ!」と飛び跳ねた。
水面に浮いていたのは無数の生きたアリだった。
底には沈んで動かない大量のアリも見える。
千鶴子の顔にみるみる恐怖の色が浮かんだ。
「まさか…」
手に持ったグラスを恐る恐る見ると、底の方に黒いアリが数匹貼りついているのが見えた。
「いやだーーー!!」
グラスは千鶴子の手からすべり落ち、スローモーションのように床の上で砕け散る。
遠くでガシャンと、こもった音がした。だが、そこから後の記憶がない。

気が付くと、千鶴子は床に倒れていた。
ザラッとした感触がして、両手をゆっくり目の前に持ち上げると、
手の甲から腕にかけてガラスの破片がいくつも突き刺さり、
血がうっすらと滲んでいた。
千鶴子は再びだらんと腕を落とした。
チリチリとした痛みが断続的に攻めてくる。
天井のシミをじっと見ているとだんだんと形が変化していく。
やがてそれは見開いた二つの目玉となって、こちらを見下ろしてきた。
「悪魔…、あの子は悪魔だ…」
目尻から流れ出る涙。一瞬ぼやけた二つの目玉が、再び天井からするどい視線を落とす。
「消えろ、消えろ、お前なんか消えろ…」
天井に向けて吐き出す声は徐々に小さくなり、やがて唇の動きだけが残った。
彼女が呻き声と共に消し去りたかったのは天井のシミか、憎らしい娘か。
それとも、自分自身だったのだろうか…。
和室では塗れた体操着がくしゃっとへたれ、
ゼッケンの数字から滲み出たインクは、余白をじわじわと侵略していった。

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