(一)歪んだ反抗
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考えもせず、ワゴンの隙間にボトルを押し込んだ。
「優香、どこ行ってたの? もう帰るわよ。ほらまた…。指舐めるのよしなさいってば。」
優香は人差し指を抜き出すと、口を尖らせた。
「じゃお父さん、また来るわね。」
そう言って千鶴子が席を立つと、優香はすかさず母親の背後に隠れた。
「ああ、ありがとな。おい優香、じいちゃんにもういっぺん顔を見せてくれや。」
優香は千鶴子のスカートを掴み、顔を半分だけ出して祖父の顔を見た。
「ほら、おじいちゃんにバイバイは。
ああん、また指しゃぶってぇ…、この子ったらもうっ。」
「優香、もう小学一年生なんだから、指しゃぶりはおかしいぞ。」
すると優香はいきなり談話室を駆け出して行った。
「優香! こら、待ちなさいってば。あの子ったらもお…」
「ははは、まあまあ、そう怒りなさんな。」
明るく励ます父に、千鶴子は大きく溜息をもらした。
36歳の晩婚で、早く子供が欲しかったがなかなかできず、
諦めかけていた7年目にようやくできた娘、それが優香だ。
赤ん坊はミルクを少し飲んではすぐに眠ってしまう。
そのまま4時間も5時間も起きないので、ミルクは足りているものと思っていた。
なんて手のかからない子だろうと千鶴子も最初は喜んでいた。
ところが、訪問した保健婦に
「体重がちっとも増えていないじゃない」と叱られ愕然とする。
その日から育児は闘いに変わった。
寝ている子を無理やり起こし、飲みが弱いと鼻をつまんで無理やり飲み込ませたり、
飲みながら寝てしまいそうな時はほっぺたをつねってなんとか飲ませた。
げっぷを出そうと抱いた途端、無情にも飲ませたミルクは
口から噴水になってあふれ出し、辺りはびしょびしょ、元の木阿弥…。
「もぉイヤ!」
描いていた子育てとのギャップに、千鶴子はほとほと疲れ果てた。
優香は一才を過ぎても言葉が遅く、健診に連れていくのが怖かった。
だが、特に憂慮されるような問題はないと言われた。
それでも、千鶴子は漠然とした不安をいつも抱えていた。
夫の茂夫に相談しても、仕事が忙しいのかいつもイライラしていて、
「育児はお前に任せる」の一点張り。
親戚の子は可愛がるくせに自分の子には冷たい、
そんな外面ばかりいい夫が不満でならなかった。
優香が風邪を引いて夜中に咳き込んでも、
茂夫は心配するどころか「うるせー!」と怒鳴る始末。
さすがに「わざとじゃないんだから…」と千鶴子がなだめても、
茂夫の怒鳴り声は一向に収まらなかった。
優香は幼稚園の年長になっても相変わらず無口な子だったが、
ある日、紙粘土で作った花瓶を見せながら珍しく自分から話しかけてきた。
「今日先生にほめられたよ。」
「へぇ、なんて?」
「花瓶、できたのが一番遅かったけど
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