loss of memory〜幸せの意味〜 【アラタ1021】
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「一応、にこちゃん以外には皆会うことが出来たんだよね‥‥」
またしても独り言。今日一日でどれだけ増えただろう。帰り道の心細さ故に現れるそれ。別に口に出す必要なんてこれっぽっちもないのに。
でも、これでにこちゃん以外のみんなが同じ状態だってことは分かった。なんであんなことになったかは本当に検討すらつかないけど‥‥。
多分、この感じだとにこちゃんもきっと同じ状態だと思う。
私は、どうしたらいいのだろう。
ーー自問する。
答えは出ない。私はただ、帰宅路を進む。
◆◇◆◇
「ただいま‥‥」
決して軽くはない足取りのまま、自宅に到着した私は小声で挨拶をして玄関に上がる。玄関室が吹き抜けになっているせいか、それとも疲れているせいなのか、ローファーの音がひどく耳に響いた。
リビングに入ると、蛍光灯の淡い光が視覚に刺激を与える。先程まで夜道を歩いていたせいで網膜が拡張していたみたい。目の疲れは顔や精神の疲れに繋がるって聞いたことがある。しばらくは、眼鏡に戻そうかな。
そんなとりとめのないことを考えていると、食後なのか歯磨きをしながらバラエティ番組に興じるお母さんから声がかかった。
「あら、おかえりなさい花陽。遅かったわね。パパが心配してたよ?」
「う、うん。ごめんなさい」
「今日も練習?」
「え? あ、えっと、‥‥うん、そうだよ」
「あんまり頑張りすぎないようにね」
「‥‥は、はぁい」
会話が終わる。練習‥‥無かったよ。
遅くなった言い訳に勢いで嘘をついてしまい少し胸が痛む。
この胸の痛みは、嘘をついたことに対してじゃなくて‥‥。
皆で練習をすることはもう無い。その事実に対しての悲しみ。
リビングをでて、二階へ向かう。お気に入りの自室に入ると私はそのまま、まるでそこに一緒閉じこもるかのように膝から扉の前に座り込んだ。
否。崩れ落ちた。
「‥‥っ、うぅ」
溜め込んでいた嗚咽。声にならないそれは一人になってついに漏れ始める。同時に、耐えきれなくなってしまった涙腺が崩壊した。
「うぅ、うあ、うぁ‥‥ん」
掠れたような鼻声。
大量の涙がとめどなく零れ出た。
皆との思い出。楽しかった日々たち。充実した毎日。大好きなメンバー。アイドルへの憧れ。自分自身の成長。周りの変化。心の変化。笑う仲間の姿。合宿で行った親友の別荘。みんなで考えた曲や振り付け。他愛もない会話。皆で見てきた景色。これから見るはずだった景色。
それらをら思えば思うほど、涙はまるで氷雨のように頬を伝う。それは胸に落ち、手の甲に落ち、そして私の心そのものを濡らした。
「おがしいよぉ! みんな、‥‥みんなおかしいよぉ!」
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