loss of memory〜幸せの意味〜 【アラタ1021】
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を考えながら。
結論が出るのは早かった。
ーーガラガラガラ。
いかにも古く、なんとも形容し難い硬い摩擦音を立てて扉を開く。中から香るのはいかにも和菓子屋って感じの、あんこの甘い香り。それは奥の厨房から風に乗り、僅かに鼻腔をくすぐった。
それによって一瞬、和らぐ緊張。
「いらっしらいませー!」
客が入ると鳴るチリリンという鈴のような音に伴って、元気な接客ボイスが店先に届いた。
自宅につながる奥の廊下から出てきたのは、明るい茶髪をしたとてもかわいい女の子。黄色いリボンで片側だけ髪を結び、割烹着を着ているあたりどこか彼女のお母さんに似た面影がある。
穂乃果ちゃん‥‥。大好きな、私の先輩。私の高校生活を最高のものにしてくれた恩人。
彼女はーーー
「あ! その制服もしかして。あなた音ノ木坂の一年生?」
皆と同じだった。
「あ、えっと‥‥、はい‥‥。そうです」
「へぇー! やっぱり! 実は私、あの学校に二年生なんだ!」
「そ、そうなんですか‥‥あはは」
いつもと同じ、終始明るい笑顔で振舞ってくれる穂乃果ちゃん。
彼女だったらもしかして‥‥。そんなことは無かった。
花陽はなんとか会話の途切れないよう受け答えをし、初対面らしくみえる演技を試みる。うん、一応大丈夫みたい。でもやっぱり、話し方や振る舞い一つとっても、自分の中にあるものを変えるのって中々難しい。さっきからでもそうだ。ついつい穂乃果ちゃんって言ってしまいそうになる。
「それじゃあ穂乃果、また明日」
「またね、穂乃果ちゃん」
店先で穂乃果と会話をしている花陽の横を、またしても見知った顔が通り過ぎた。
花陽はすぐに誰か認識する。南ことりと園田海未。穂乃果に誘われてスクールアイドルを始めた、μ'sの一番最初のメンバーであり彼女たちもまた大切な先輩だ。
「あ、うん。バイバイ! ことりちゃん、海未ちゃん!」
二人は花陽に見向きもしない。つまり、皆と同じ。
花陽はまだ、何も知らない。
※※※
その後、花陽は何もせずに店を出るのも不自然だったのでほむまんを家族分だけ買って穂むらを出たのだが、穂乃果と会話をしても結局μ'sのみんながなんでこんなことになってしまったかについては、まったくといっていいほど全然手がかりが掴めなかった。
もちろん、直接的なことを聞いた訳では無いけど、それとなく会話にヒントがないか注意深く言葉の裏を探ってみたりはしたもののまったく無意味。つい昨日まで仲良くしていた先輩と他人行儀で話すという少し不思議な気分を体験しただけ。
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