第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:感情の名前
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体たらく。文字通り人生初であった一人での料理に溜息を漏らしつつ、保険の為に用意していた店売りのサンドイッチをオブジェクト化してみことへと手渡す。あらかじめパラメータを設定された料理に嫉みの籠った視線を向けるのも一瞬のこと。嬉しそうに手に取ったみことに複雑な感情を抱きながらも、やっぱり胸の奥に温かいものがちらついて笑みが零れてしまう。
同時に、ふと思う。みことと出会ってからというもの、自分の感情に理解が及ばないことが多くなったような気がすると。
というより、これほど感情を揺り動かされること自体が、ピニオラにとっては経験のないことだったと言えるだろう。現実でただの女子高生だった頃には、年相応に何かに興味を持ち、それに全力を尽くすという概念がなかった。この世界に閉じ込められたその結果として、創作活動という得難い嗜好を得たものの、みことと出会ってしまってからはそれさえも褪せたように全く食指が動かない。
そして何より、みことはどうして自分に懐いているのだろうとも、そんな疑問が脳裏を過る事もある。観察対象が自らの意思で傍に留まってくれることについては願ったり叶ったりであるが、控えめに言っても《子供の相手に向く人種ではない》と自己を評価するピニオラにとっては不可解としか言い様がない。
この関係がいつまで続くのか、いつまでも続いていいのだろうか。
そんな疑問を提起する度に、どうしてかピニオラは気分が落ち込むような、重苦しい感覚に責められる。
「お姉ちゃん、どうしたの? 考え事?」
「………いいえ〜、何でもないですよぉ。そんなことより、みことさんはご飯食べないんですか〜?」
「うん。ちゃんとみんな椅子に座って、いただきますしてから食べなきゃダメなんだよ。ママが言ってたの」
「偉いですねぇ。じゃあ早くご飯にしましょっか〜」
――――素直な子だ。
こんな淀んだ世界に閉じ込められていながら、今もなお無垢で、温かい。
だからこそ、胸の重苦しさが晴れることはない。みことの傍らに在って守ってあげられるような人間は、間違いなく自分ではない。だからこそ、みこととはいつか道を隔てなくてはならない。思えば、こうしてみことの行く末さえ考えてしまうことさえ、ピニオラからすれば以上でしかないのに、軋んだ歯車のように動くことのなかった感情は、小さな同居人と触れ合うようになってからというもの、これほどまでに機微に富むようになった。それが、恐ろしくさえ思えてしまう。
「………そういえば、みことさんとお話したいことがあるんですけどぉ、良いですかぁ?」
「ん? なぁに?」
問いかけに、みことは訝しむ表情一つ見せることなく首を傾げて応じる。
「みことさんは、わたしと居ても平気ですかぁ?」
この質問はピニオラ
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