第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:感情の名前
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しいかな、子供受けする料理の大多数が高難度に位置付けされるのである。ピニオラのスキル熟練度から見上げる高嶺は、無慈悲にも高く険しかった。
――――だが、システムから提示された可能性は《0%》ではなかったのだ。
夕食に並ぶと喜ぶこと請け合いのハンバーグでは17%、冬の定番ではあるがシチューでは21%、誰でも作れると名高いカレーでさえ香辛料から拘るつもりなのか19%という敷居の高さ。ネットゲーマーであれば脊髄反射で目を背けるであろう低確率の数々。50%でさえ訝しむ声があがるというのに、それでもピニオラはカレーを選び、敢えて立ち向かった。
自らのレベルを大きく逸脱する高難度の料理を挑戦するだけでは、失敗しても熟練度は得られない。だが、仮に成功してしまおうものならばスキルの成長は著しいものとなる。次回からの調理の糧となろう。ただ、自らの行いが成功確率を棚上げした机上の空論であったとピニオラは身を以て思い知らされることとなる。
それこそが、ピニオラとみことの視線の先に広がる《悲劇の産物》に他ならないのだが。
「このお鍋、いい匂いする! おいしそう!」
「あ、そうですか〜? ………じゃなくってぇ、危ないから食べちゃダメですからね〜。お腹壊しちゃいますからぁ」
一瞬だけ気を良くしかけながらも、ピニオラはなんとかギリギリで踏み止まる。
SAOのシステム上、視覚と嗅覚と味覚へと伝えられる感覚データは、それぞれパラメータが異なっていることも珍しくはない。というより、作成にファンブルした料理というものはほぼ確実に何らかの法則を無視した悍ましい物質として生成される。
みことの視点からは寸胴鍋の中身までは確認することは叶わない。ピニオラしか窺い知ることの出来ないであろう光景に在るのは、鍋一杯の黒く粘性を帯びた液体だった。更に言えば、表面に油膜特有の虹色の光沢を帯びた液体。早い話が原油である。確かに、何か動物性の出汁を使用したような匂いを漂わせてこそいるが、食用に向かないような味覚パラメータであった場合、みことへ与えるダメージはおろか、ピニオラ自身の心の傷さえ計り知れまい。恐らく立ち直ることは出来ないだろうと推測する。
当然、圏内であればダメージも状態異常も発生することはないが、人体に影響を及ぼしかねないトラウマや他諸々の精神疾患を起こし得るような危険物をみことの口に入れるわけにはいかないと、ピニオラはそそくさと鍋ごとアイテムストレージに納めて隠蔽を決め込んだ。不思議そうに首を傾げるみことに、自分の情けなさから出た苦笑いを零しつつ頭を撫でて応じる。
「代わりに……って言ったら変かもですけど、これで許して下さいねぇ?」
意気揚々と挑んだわりには、目測を誤って散々な結果になってしまうという
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