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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
外伝 煩雑な日常4連発
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誰か何でもいいからフォローを……そんな気まずい沈黙を破ったのは、何故かこんな時だけ真面目になってしまうあの男。

「………アイズ、謝るな」
「え……?」
「二度と戻れない思い出は誰にでもあるものだ。それに縛られることも、戻れないという事実を悲しく思うことも、人間ならばある。だが、だからこそ俺たちはその弱さを仕舞い込む。前に進むとき、過去に引き摺られないようにな」
「オーネストにも、あるの………?」
「ああ。……過去は楔にも重石にもなるし、時には人の運命を決定づけることもある。だがな、過ぎ去った事実は後でどんな行動を取ろうと変えることはできないし、無かったことにもできない。それが今を生きる人間の一部となって積み重なり、人の形を成していく。だからお前のその弱音も過去も、お前だけが持つお前の一部だということを忘れるな。さっきの謝罪はまるで自分の過去を否定しようとしているようだった。それは、辛いことだぞ」
「…………オーネストは、違うの?」
「俺はいいんだよ。お前の話をしてるんだから」
「……その逃げ方、パパっぽい」
「その様子だと俺の杞憂に終わりそうだ」

 フッ、と一瞬だけ微笑んだオーネストは、席を立ってバカ騒ぎするアズとロキに手加減居合拳を叩き込む。アイズはそんなオーネストの方を見送り、一度強く頷いた。先程の弱弱しい彼女はどこにもいない。オーネストの言葉で何かが吹っ切れたようだ。

 その一方で、リューは励ましの役目を一番似合わなそうなオーネストに取られるという言葉にできない屈辱に打ち震えていたのだが。
 何故、よりにもよってあの男が――とも思うが、元々オーネストは他人の心情の機微にはかなり鋭い方なので納得はできなくもない。できなくはないのだが、なんか悔しい。あのくそガキにコミュニケーション能力で劣ったのがやたら悔しい。その口惜しさを吐き出すように、リューは呟く。

「人の事言えないくらい過去に苦しんでる癖に………自分事はいつも後回しなんだから」
「リュー、さん」
「え……あ、何でしょうか?」

 不意にアイズに名前を呼ばれたリューはハッとして彼女の方を向く。
 直後。

「今の言い方、ママっぽかった」
「―――……………」

 アイズの特に深い意味のない一言に、リューは「よりにもよってオーネストと!?」と全力で否定したい反発心とまだ幼さを残す華奢なアイズへの気遣いとの葛藤に板挟みにされ、数時間ほど顔に張り付いた営業スマイルが取れなかったという。
 
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