第二章
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「出来る限り起こって欲しくない」
「全くですね」
「うん、あとね」
「あと?」
「怪我をした人の中にベドウィンの人達がいたね」
この地域の遊牧民だ、特に国を持つこともなく彼等の生活を送っている。
「車に乗っていた人達の中に」
「そういえばそうでしたね」
「あの人達も時には車に乗るんだね」
馬ではなく、というのだ。
「そうなんだね」
「ええ、確かに遊牧民なので馬や駱駝が常ですが」
「時と場合によっては」
「何か別の民族の人に呼ばれて乗せてもらっていたらしいですね」
その車にだ。
「そうだったらしいね」
「そうだね、何はともあれね」
「はい、あの人達もですね
「時には馬や駱駝じゃなく車に乗る」
「運転はしなくても」
「そういうこともあるんだね」
「あのベドウィンの人は比較的軽傷でしたね」
その人の怪我のこともだ、フセインは話した。
「右腕打撲で」
「幸いね」
「骨折もなくて」
「あの人は運がよかったよ」
ピエールは言った。
「本当にね」
「そうですね」
「いや、結構な事故だったから」
ピエールは考える顔になりあらためて言った。
「むしろ死んだ人がいなかった」
「このこと自体がですね」
「運がよかったよ」
このこと自体がというのだ。
「本当に」
「ええ、本当にそうですね」
「嬉しいことだよ」
「じゃあこのことに感謝しながら」
ピエールはカトリックでフセインはイスラムのスンニー派だ、それぞれ宗教は違うがそこはあえて話さなかった、それもお互いに。
「私達の街に戻りますか」
「落ち着いたらね」
二人でこうした話をした、外でコーヒーを飲みながら。そして実際に落ち着いたところで彼等が今拠点にしている街に戻ろうとすると。
二人のところにだ、一人の浅黒い肌の痩せた青年が来てこう言ってきた。
「あの、お二人にです」
「僕達に?」
ピエールは青年に応えた。
「何かあるのかな」
「父がお礼をしたいと言っています」
「お礼というと」
「事故で手当をしてくれたの」
「ああ、あの交通事故の」
「はい、それで」
「というと君は」
ピエールはここで青年が何者なのか察して言った。
「あの人の」
「息子です」
「ベドウィンの人なんだ」
「そうです」
まさにその通りだというのだ。
「それで父に言われてお二人のところに来ました」
「そしてなんだ」
「こうしてお話をさせてもらっています」
「そうなんだね」
「我々の今の場所はこの街のすぐ近くです」
ベドウィンは遊牧民族だ、だから定住しない。それで場所と言ったのだ。住んでいる場所ということである。
「そこにいますので」
「そこにお招きしてくれますか」
「はい」
その通りという返事だった。
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