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真田十勇士
巻ノ五十九 甲斐姫その四

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 しかしその彼にだ、家臣達の中にいた一人の女武者、白い服と具足に陣羽織という北条家の服を着た者がいて成田に言ってきた。見れば眉目秀麗で長い髪は膝のところまであり鉢巻きを締めている。
「父上、それではです」
「甲斐か」
「時を見て私がです」
 こう言うのだった。
「堤に夜襲を仕掛け」
「そのうえでか」
「堤を壊してみせましょう」
「口ではそう言うがな」
 成田は自身の娘である甲斐姫に答えた。
「それが出来るかどうか」
「難しいですか」
「うむ、それはな」
「いえ、時は必ず来ます」
 甲斐姫は父に毅然として言った。
「ですから」
「その時にか」
「一気に攻めます」
 まさにと言うのだった。
「お任せ下さい」
「ではじゃ」
「はい、この城の危機をお救いします」
「そうするか、ではじゃ」
 父は娘の言葉を受けた、そしてだった。
 甲斐姫にだ、あらためてこう告げた。
「その時が来れば動くがいい」
「さすれば」
「全て任せた」
 こう甲斐姫に言うのだった、こうして彼等がどうするかは決まった。だがその間にもだった。石田率いる軍勢は。
 堤を築いていく、石田はその状況を見て言った。
「このままいくとな」
「はい、堤を完成させてです」
 島が石田に応えた。
「そのうえで」
「水を流し込むことが出来るな」
「そうなりましょう」
「では城を攻めることが出来るか」
 石田は確かな声で言った。
「水攻めで」
「そうなるかと、ただ」
「油断はじゃな」
「はい、禁物です」
 くれぐれもと言う島だった。
「相手もわかっております」
「水攻めになれば終わりということがな」
「ですから」
 それでというのだ。
「守りを固めていきましょう」
「最後の最後までな」
「堤全体を守りましょう」
「夜も気をつけよ」
 今度は大谷が言ってきた、彼は今も石田の傍にいる。
「わかっておるな」
「うむ、夜こそ敵は来る」
 石田も大谷のその言葉に確かな声で答える。
「特にこうした時はな」
「そうじゃ、だからな」
「夜もじゃな」
「守りは固めておこうぞ」
「そうしていこう、しかし甲斐姫が来れば」 
 その時が来ればとだ、石田は強い声で言った。
「厄介か」
「うむ、東国一の女武者という」
「巴御前の様なじゃな」
「だからじゃ」
 それ故にというのだ。
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