深淵-アビス-part2/奈落の底
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王子、いつぞやの求婚の約束を覚えていますか?今宵のように、美しい双月が輝いていた、あの夜を。今、あのときのご返事をいたしましょう……」
妻として、ここで死を。それがウェザリーの脚本の流れだ。思えば、ハルナにしては少々空気の読めないところを感じるシーン選びだ。今のサイトは救いたかった人の死を回避できなかったことへの自身の無力さを痛感している。
だが、直後にハルナの口から放たれた台詞は、サイトの予想を越えた。
「…王子、私の返事を受ける前に一つ、約束をしてくださいませ」
「え…!?」
「私は、これから王子のお願い通り、国に戻ります。ですが…どうか誓ってくださいませ」
脚本になかった台詞がいきなり飛んできて、サイトは驚くが、さらにハルナは続ける。
「私を、どうか…帝国から連れ去りに来てください。そして、二人で遠い田舎へ向かい、一緒に生きて下さい」
更なる改編された台詞。サイトは戸惑った。いきなりこんなことを言ってくるなんて。
しかし、ハルナは返事を待ってその場で立ち続けている。でも、どうしてこんなことを?
『…ほら、応えてやれよ。待ってるぞ』
『わ、わかった…』
同じように戸惑いながらも、ゼロからも背中を押され、サイトは覚悟を決め、足りない頭でアドリブを考え、それを口にした。
「…ああ、もちろんだ。僕はどこまでも、君のもとへ駆けつけよう」
それは、サイト自身の気持ちでもあった。この子は絶対に守らなくてはならない。それをハルナが出してきた問いに対する答えだ。
「ありがとう、平賀君。付き合ってくれて」
ささやかながらも、自分の我が儘に付き合ってくれたサイトに、ハルナは礼を言った。
「ま、まあ…これくらいなら」
それなりに気分転換にもなったし、決意をより固めるきっかけにもなった。
「お陰で、私もちょっと不安が抜けたみたい」
「不安?」
「前に言ったよね?平賀君がこの世界に馴染んで、地球に帰るのを止めちゃうんじゃないかって」
ハルナの言葉に、サイトはあぁ、と漏らした。ホーク3号を案内したときの会話で、そんなことを彼女は言っていた。それを見てサイトは心が痛くなったのも覚えている。
「今ので、平賀君が傍にいてくれているんだって、改めて実感できたの」
「そっか…」
彼女のあの時の不安が払えたのなら、やった価値があったと言うものだ。
「んじゃ、俺も打ち上げに途中参加するか。ハルナ、行こうぜ」
「うん。…ねぇ平賀君」
サイトが下の階に続く梯子を降りようとした際、少し赤くなりながらもハルナはいたずらっぽく言う。
「ん?」
「なんか、さっきの返事なんだけど、本気に聞こえちゃった」
「え?本気だよ」
それを聞いた途端、ハルナは「え…?」と声を漏らしながらサイトを見ようとしたが、既にその時、サイトは下に降りた後だった。
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