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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百六十八話 陰謀家達
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に気を取られすぎたか。もし俺の考えがあっているとすれば、俺はとんでもないミスをしている事になる。敵の見積もりを誤った。
ドアを開けケスラーが入ってきた。椅子に座るように勧めたが、我慢できずに座る前に問いかけていた。
「ケスラー提督、四百八十四年の春に起きたトラウンシュタイン産のバッファローの毛皮の一件、あれについて教えてください。あの一件、噂では闇の左手が動いたと有りましたが、事実闇の左手は動いたのですか?」
ケスラーは訝しげな表情をした。いきなり呼ばれて三年前の事件を訊かれるのだ、無理も無い。腰を降ろしながら答えた。
「いえ、我々は動いていません。物が物だけに裏で我々が動くよりも憲兵隊が表で動いたほうがいいだろうと、グリンメルスハウゼン閣下が判断されたのです」
闇の左手は動いていない。だがビーレフェルト伯爵は自殺、宮内省の三人の職員は行方不明……。謀殺された、同盟に亡命したという噂も流れた。
「ビーレフェルト伯爵は本当に自殺だったのでしょうか」
ケスラーがキスリングを見た。俺の質問が腑に落ちないのだろう。キスリングも訳が分からないといった表情をしている。
「自殺とも他殺ともとれる状況だったそうです」
他殺だ、間違いない。証拠など無いだろうが他殺に間違いない。奴らが動いた。
「他殺だとすると犯人は?」
「分かりません。おそらくはビーレフェルト伯爵が毛皮を贈ろうとした人間、あるいは交渉した人間でしょう」
「宮内省の協力者は見つかりましたか?」
「いえ、ビーレフェルト伯爵が死んだことで結局分からずじまいでした。あの件については申し訳なく思っています。閣下からお預かりしたのに不本意な結果になってしまいました」
ケスラーが申し訳なさそうに頭を下げた。
「いえ、それはいいんです。ケスラー提督、ビーレフェルト伯爵を殺したのはフェザーンとは考えられませんか、宮内省の協力者が本当に組んでいたのはビーレフェルト伯爵ではなくフェザーンだった。フェザーンは宮内省の協力者を守る為にビーレフェルト伯爵を殺した」
「!」
ケスラーが唖然としている。キスリングはまだ事態が飲み込めないようだ。
「今回の誘拐事件、宮内省に協力者が居たそうです。それを動かしたのは……」
「フェザーンですか!」
ケスラーとキスリングが顔を見合わせている。
「近衛に協力者を作ったのも宮内省の協力者でしょう。軍に縁の無いランズベルク伯に近衛を動かす事が出来るとは思えない。宮内省の人間なら何かにつけて近衛とは接触があってもおかしくは無い」
おそらく、領地替えの情報はラインハルトからオーベルシュタインに伝わった。その後は社会秩序維持局、いや内務省からランズベルク伯達だ。だがこの情報はフェザーンにも流れたのだ。
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