暁 〜小説投稿サイト〜
先恋
先恋〜プロローグ〜
[1/2]

前書き [1] 最後 [2]次話
「今日から此処が私の…」
教師になって三年、二年間勤めていた学校から転勤が決まり、新しく勤めることになった、“大北東山高校”。その校舎を見つめ、24歳、国語教師の瑞木沙奈は小さな声で呟く。まだ教師になって時間が経っていないからか、初の転勤だからかは分からないが、異常な程の緊張と期待、不安が押し寄せる。
「だ、大丈夫、大丈夫…」
沙奈はゆっくりと、校門から中へと入った。

初めて見る学校、緊張が中々ほぐれない。如何しても息が荒く、鼓動が早くなる。どうしたものか、と沙奈は考える。ーーと、沙奈はある事に気がつく。転勤し、新しい所へ来たという事は……

「は、初めまして!瑞木沙奈と言いますっ!」
全校生徒の前での挨拶。舞台の上からたった一人。大人数の前で。慣れていないとは言え、緊張で足が震える。ゆっくりと深呼吸をする…が、何も変わらない。呼吸の荒さがマイクに伝わらぬ様、何とか呼吸を整えようとする。
「えっと…き、教科は国語を担当します!今年で三年目なのですが…」
取り敢えず、言うべきだろうかと思う事を話す。大都会ではないが、田舎でもないこの場所では、中々の生徒数。その視線全てが自分に注目しているとなると、緊張がおさまらない。
「皆さんと沢山お話出来たらと思います!」
あと一言、沙奈はゆっくりと息を吸う。
「お、お願いしましゅっ!」
最初から静かだった空間。それが今静かになった様に感じる。しまった…、沙奈は顔を赤くし、席に着く。
(噛んでしまった…)
頭の中に先程の自分の言葉が流れる。穴があるなら入りたい気分だ。
(お、お願いしましゅって何!お願いしましゅって??)
今すぐ両手で顔を覆いたいが、流石に出来ない。早く此処から去りたい…と、生徒の中で笑っている人がいた。教職員にもいる。必死で笑いを隠すが、隠しきれていない顔…。
(来ていきなり醜態を晒すなんて…)
生徒は子供だ。笑っても何とも言えないだろう。それが、教職員数名にも居るのだ。俯向くしかない。恥ずかしさで押しつぶされそうだ。まだ笑っているか?見たくもないのに見てしまう…、笑っている。見るんじゃなかった…。視線を外そうとした時、ある男子生徒と目が合った。名前も知らない、声も聞いた事がないその生徒は、笑いを我慢することもなく、ましてや、周りには目もくれずに、此方を見つめていた。周りなんてどうでも良い。そう言っている様に、ただ、ジッと、此方を見ている。目が合っていることには気付いていないのか、ただ、此方を見ているだけ。ボーッとしているだけで、頭の中では笑っているのかもしれない、それでも、今こうして笑う事なく見てくれている事に救われた。
(ありがとう…)
今此処で、声に出しては言えない言葉を心の中で何度も繰り返した。嬉しさで、心が温かくなった。あの苦しみが消えた様に、無くなっ
前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ