淀み
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見えないとか、そんな次元ではない。動物の心情を人間の尺で話すようなものだ、それを感知するにはあまりに人間は慢心がすぎる。
これが魔術の世界。世俗を抜け、人間をやめて初めて語ることが許される次元。それに、アイツだけでなく僕まで片足を突っ込んだと言うのか。
「――Anfang(セット)」
僕を抱え宙を飛ぶ遠坂凛が言葉を紡いだ。手にもつ三つの宝石を光らせる彼女からは何かが突き刺さる音と共に感じたこともない、聞いたこともない力が彼女から沸き上がるのを感じた。
なんて、なんて気持ちの悪い感触と感覚。吐き気と共に上ってきた確信が、僕に告げる。今から見せるこれが魔術である、と。
「爆炎弾三連!」
どくりと宝石の輝きが歪み、鼓動を始めたかのように輝きの中で炎が上がる。そうして同時に放たれた宝石は揺らめきを纏い、淀みを屠らんと襲いかかり、触れる直前に爆発を起こす。
現実の尺では計り知れない現象に目をひんむかざるを得ない。夢で見た男のように詠唱を簡略して魔法を放っている、しかも男とは違って理を示す陣も無しに。
普通の人型ならば肌が焼けるどころか四散し、うちの筋や神経、内蔵まで焼き尽くされているであろうその威力。しかし膨れ上がった炎が晴れた先には火傷どころか焦げすらしていない淀みの姿。
恐怖に全身が鉄筋でも仕込まれたかのように硬直する。あれは人間ではない、分かっていたようで、やはり僕は分かっていなかったのだ。どうしてもファンタジーとリアルを切り離せずにどこか疑いの念を持っていたんだろう。だからこそ突きつけられて恐怖する、こんなのが現実で襲いかかってきたのだと。
「無傷か……結構高い宝石だったんだけど」
「ど、どうするんですか!?」
情けないイリヤスフィールの声にどこか苛立ちを覚える。力を手にいれて夢現気分であると言うことが丸分かりだからだ。だが僕は声をあげることすら出来ない、情けないアイツと違って、僕は更に情けなく心までが怯えきってしまった。
なまじ賢く気取ってきたからよくわかる、あんなのに勝てる訳がないのだ。それこそ、夢の男を連れてでも来ない限り。
「……あんたがなんとかしなさい。じゃ、任せたから! わたしはこいつと影に隠れるから!」
「え、えぇーーーー!!?」
まさに脱兎の如く。巻き込まれないようにか、それとも自身の身を優先してか。遠坂凛の心情など僕に知る由もないが、そうして逃げ出してくれたお陰で僕は淀みと距離を離すことが出来た。落ち着いて心情を整理できる時間が生まれたのだ。
建物の影に入っても、遠坂凛は何も言ってはこない。僕の心情を推し量れたからこその思いやりなのか、はたまた失望から興味を無くしたのか。格好悪く震えているだけの僕には、まだ分からない。
――
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