飛び降りる姉
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、偏にあたしがバカだった所為だ。彼はあんなに気遣って止めてくれたのに…。
「全然平気。ノエルが良くなったから姉さんは元気いっぱいよ!」
ゼェゼェと息切れの随に力こぶを作ってニッと笑ってみせる。
「…」
けれど、ノエルはそんなあたしを見て笑うでも無く、ふいと顔を逸らせた。
「あれ?ノエル?ノエルちゃーん」
「…姉さんはさ」
ノエルはこちらを見ないまま、ぽつりと言う。
「どうしてそんなに、僕のことを大事にするの?」
「えぇ?愚問ね。あなたのことが、大事だから」
あたしは何でもないことのようにさらりと言う。そう、ノエルを大事にするなんて、あたしにとっては呼吸をするように普通のことなのだ。昔から、そして今も。でもノエルはその解答がお気に召さなかったみたいだ。
「それは何故。あれだけの怪我がこんなにはやく良くなることなんて普通だったらあり得ない。姉さんが何かしてくれたんでしょう?こんな世の中、薬だって医者だって、お金が無ければ誰も手を貸してくれることはない。ねぇ、一体何と引き替えにしたの?何を犠牲にして・・・そんな価値が『僕』にあるの?苦しい思いをしたって、風邪をうつされたって、なにがあったってあなたはこうして笑っている。それはなぜ?」
ええ、と…。思春期かしら?ノエルがこんなに長々喋るのを見るのは初めてかもしてない。自分の思いを、こうして口に出してくれるのは珍しい。いつもぐっと自分の中に堪えてしまう子だから…。これはいいチャンスよ。姉として、母の代わりとして、しっかり受け止めてあげなければ。
「ノエル…何度だって言うわ。あなたが大切だからよ」
「それは僕が『弟』だから?」
「それももちろんあるけれど…。でも、別にあなたを大切に思うのはそれだけじゃないわ。例えあなたがあたしの兄弟でなくても…同じように愛している」
ぱっとノエルが弾かれたようにあたしを見た。もう熱のせいで朦朧としたあたしは半目だが、その狭い視界でもなんだかノエルが珍しい表情をしているのは見えた。なんだか、水面の奥に炎を揺らめかせるような…力強い目をしている。そしてやっぱり怒っているような…。今日のノエルは表情豊かだ…。
「僕を愛してくれるの?」
「愛しているわ。ずっとよ…。昔から…」
「過去のことは知らない。これからのことが聞きたい。姉さん、僕の傍に居てくれるって言ったね。それは嘘じゃ無い?」
「嘘なんかじゃ無いわ。あなたが可愛い奥さんを見つけてくる日まで、あたしがあなたを守る…。…ごめんなさい、ノエ
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