第18夜 喪失
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「ドレッドが――死んだ?」
「貴様がその名前を口にするなッ!!!もう一度殴られたいのかッ!?…………クソッ!クソクソクソクソッ!!こんな腐抜けた顔など思う存分殴ってやりたいと思っていたのに、顔を見返すほどに苛立ちが募るばかり……!!もういいッ!!貴様などの面を拝みに来た私が間違っていた!!貴様はそうやって自分の不幸を他人になすりつけながら勝手に戦って勝手に呪獣の餌になってしまうがいいッ!!」
一方的に感情を爆発させたステディは最後に涙を流す目でトレックを見下ろし、そのまま足音荒く部屋を後にしていった。その背中を見送ってから、トレックはオウム返しのように自分の言葉を繰り返した。
「ドレッドが――死んだ?」
目を覚ましてから何一つ実感の沸かなかった状況の中で、その言葉とステディの涙だけが異様に鮮明に頭の中に残り、胸の奥がずぐり、と痛む。痛みは血が滲むかのようにじわじわと体を蝕み、トレックは時間を置いてやっとその事実の意味を理解した。
ドレッドは、今になって思えば変わった男だった。
普通の「欠落持ち」は始めこそ友好的な態度をとるが、会話をすればするほどにその熱は冷めていく。俺の持つ普通の人間特有のしぐさや態度が彼らをそうさせるらしい。しかし結局ドレッドは最後まで俺に友好的な態度を崩さなかった。それは彼が特別だったのか、或いはそのように振る舞う欠落というだけで内心は違ったのか、真相はわからない。おそらく本人が生きていたところで、そのように内心を表に出さない欠落があるのなら絶対的に隠し通すだろう。
ドレッドは死んだ。彼に陶酔していたステディが涙を流しながらああ言ったのだ。ドレッドは死んだのだろう。しかし、当の彼の死という事実に対して決定的に現実感が欠如していた。少し前まであれほど恐れていた筈なのに、頭の中に転がる死という言葉の重みが試験中と今とではまるで違う。
俺にとって、ドレッドの会話はついさっきの出来事のようにしか感じられない。
ふと自分はまだ夢を見ているのではないかと思った。しかし、腫れあがった顔面のひりつくような痛みが先ほどの生々しい暴力の真実味を訴えかけている。
「………なんで死んだのか、確かめないと」
自分でもどうしてそんなことを思ったのかわからない。
ただ、自分が試験に合格した実感が沸かず、何一つとして自分の脳裏をよぎる疑問たちに答えが出せないままでいる現状をどうにか打開するために情報を求めたのだと思う。俺は両足に力を込め、未だ倦怠感のある体を無理やり動かして部屋の外に出た。
廊下には誰もいない。まるで生物そのものが存在しないような不気味さを覚えるが、実際には別の部屋の中からは人のしゃべり声が聞こえる。おそらく兵士か、別の試験合格者の会話だろう。盗み聞きする気も起きない
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