第18夜 喪失
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ての移動。罪人との邂逅。初めての戦闘。そして出会いと誓い。
無意識に、トレックは自分のズボンのポケットに手を入れ、中をまさぐった。
一本の、綺麗に編みこまれた紐が出てきた。よく見つめると、中ほどの部分だけが微かにくすんでいる。これは確か、ガルドの武器を真似て――。
「ガルド………そうだ、ガルド!!ステディさんとドレッド!!それに外灯の上の呪獣は!?ギルティーネさんはどこだ!?ここは――!?」
「――ここは、試験合格者に割り当てられた休憩室だ」
静かに、部屋のドアが開いて女性の声が聞こえる。
トレックがそちらに振り向くのと、その少女が光源杖を振りかぶるのはほぼ同時だった。
顔面に強い衝撃。目の前がチカチカと転倒し、唯でさえ調子の芳しくなかった体が後ろに崩れ落ちてテーブルごと床に崩れ落ちる。遅れて、じわじわと顔に痛みが奔る。殴られて、転倒したのだと理解した。
一体どうして、と考える間もなく、誰かがトレックの身体の上に馬乗りになってシャツの襟首をあらん限りの力で締め上げる。トレックは呼吸に詰まりながら反射的にそれに抵抗して、次第に回復する視界を必死に圧し掛かる相手に向ける。
そこにいたのは、自分の知っている顔だった。
「ステディ、さん」
「貴様が………何でっ、貴様がっ!!何故私たちを捨てて真っ先に逃げ出した貴様が特別な待遇を受け、私は全てを喪ってこんなにも惨めな思いをせねばならん!!貴様と関わらなければ――ドレッド様が貴様のような半端で気味の悪い異端者と関わらなければっ!!」
こちらが言葉を発するより早く、ステディの拳がトレックの顔面を打った。女性の細手であっても戦闘訓練を受けた準法師のそれとなると軽くはない。しかも体調が戻りきっていないトレックには、頭では殴られていると分かっていても体の反応が追い付かない。そのまま碌に抵抗できず、10回近く殴られ続けた。
「ぐあっ……!う、ぐっ……!」
「痛いか!痛いなら悲鳴を上げて苦しめ!!お前が犯した罪を一つ一つ思い浮かべて懺悔しろッ!!」
最後とばかりに彼女が大きく振る被った拳。
その時、トレックはやっとステディの瞳から涙が零れ落ちている事に気付いた。
「――お前らが逃げたせいで!お前らの所為でドレッド様も死んだッ!!ガルドだってお前の横の女は助けられたはずなのに、助けなかった!!お前らは呪法師の誓いをコケにして身の保身に走り、私の大切な者を全て奪ったんだぁぁぁぁぁーーーーッ!!」
拳は、真っ直ぐトレックに叩き込まれた。
骨と肉を叩く鈍い音。凄まじい衝撃が頭を突き抜け、トレックは再び意識が遠のきそうになった。
しかし、理不尽な暴力に晒される中で、トレックはステディの発言のことばかり考えていた。
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