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満願成呪の奇夜
第17夜 撤退
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に抵抗することも許されなかったトレックは、次第に考え事をする余裕さえ失せて行った。トレックは次第に息を切らせ、暴れ狂う三半規管と胃の悲鳴に支配されていく。

 やがて、トレックとギルティーネは出発点である『境の砦』に到着した。
 呪獣の正体も、ガルドが本当に死んだのかも、それどころか置いてくる形になったドレッドとステディの安否さえ確認できない。ただ、ゴールと同時にギルティーネはトレックを離し、長時間揺さぶられ続けて疲労困憊のトレックはそのまま受け身も取れずに地面に叩きつけられた。

「かはっ……!……ぜぇ、ぜぇ……ぉぐっ!?」

 起き上がろうとした直後に耐えがたい吐き気が襲い、トレックは朦朧とした意識のまま嘔吐する。胃がひっくり返るような苦しさと虚脱感が、トレックが体を動かす体力と余裕を完全に奪い去った。

 砦には、教導師と数名の衛兵らしき呪法師が待っていた。トレックがフラフラの身体で起き上がろうとすると、教導師はトレックに目もくれずに法衣の懐をまさぐり、仮設砦で貰った紙を摘まみ上げて「合格だ、休んでいいぞ」とただ一言告げた。未だに立ち上がれずにいるトレックのことは、既にどうでもいいらしい。

「………ひどい有様だな。おい、ドーラット準法師。焦っていたのは分かるが、次はもう少し丁寧に運んでやれ」
「…………………」

 薄れていく視線の先にいたのは、虫けらを何の感慨もなく見つめるような表情のない美貌。

 そこから砦の一室で目を覚ますまで、トレックは自分がどうやって移動したのかを覚えていない。
 
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