第17夜 撤退
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一方、ギルティーネに抱えながらも二人を遙かに超える速度で走り続けるトレックは、暴れ馬に引かれた馬車のような振動に揺さぶられて頭痛と吐き気を覚えながら、必死で頭脳を回していた。
(ギルティーネさんは何でいきなり俺を抱えて動き出した!?俺は指示してない、ってことはギルティーネさんが独断で何かをしているってことだ!!それは何だ!?言葉で理解できないなら前後の行動で割り出せるはずだ!!考えろ……考えろ……!!)
行動前、気が付けばギルティーネは上を見上げていた。あれはどう考えてもこれまでになかった反応だった。しかし、行動の意図はまだ見えない。それ以前は遺留品らしき杖のチェック。この時はギルティーネから目を離していたので判然としない。そして唐突なガルドの消失から数秒後、彼女は突然トレックを抱えて動き出した。
彼女が突然行動を起こしたのは何故だ。トレックの言う事を聞くはずの彼女が動いた理由は。
(これまでギルティーネさんが自律的に行動したこと……鉄仮面を外すとき――これは単なる習慣的なものだろう。次は鍵を持ってきて自分の武器のケースを開けさせたとき……試験に不可欠な物だったからだろう。次は……櫛の件は単なる言葉の錯誤だから……最後は確か、ステディさんが殺気立った瞬間に割り込んできたことくらいか?)
ステディと自分の間に割って入ったという事は、護衛対象を防衛するための行動。つまり殺気を感じてステディがトレックに害意を加えようとしていると考えての行動だったのだろう。
以上の条件からして今の状況を説明するのに、習慣的行動は考えにくい。
事実の錯誤は、何を錯誤したらこうなるのか説明がつけられない。
トレックを抱えて砦に戻らなければならない程残り時間はひっ迫していないから、試験に不可欠な行動とも思えない。――いや、とトレックは考え直す。
(俺が死んだら、必然的にギルティーネさんの未来は閉ざされる。つまり俺に命の危機が迫ったらギルティーネさんは行動する。不可欠な行動と俺の防衛はイコールになる……俺に、命の危機が迫っている?)
周囲の何所にも敵のいないあの場所の一体どこに命の危機があったのか。確かに外灯のせいで普通より視界は悪かったが、そもそも呪獣は周囲に光があると極端な行動をとる習性がある。光を避けて逃げ出すか、光の源を殺そうと決死の覚悟で光に踏み込むかだ。
――但し、あまり考えたくはないが、上位種はその限りではない。
(上位種が、いたのか!?あの場所の何所に――)
かつん。
ほんの小さな、金属を叩く甲高い音が耳に響く。
今の音は、何だ。激しく揺さぶられながら周囲を見渡すが、何も見当たらない。一瞬あまりにも早すぎる移動速度にペトロ・カンテラ(ジャック)が追い付かなくな
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