第17夜 撤退
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ィーネの方を振り向いて――疑問を抱いた。
「……ギルティーネさん?」
「………………」
ギルティーネが、剣を引き抜いたまま上を向いている。
今、上にあるのは外灯とさらにその上に広がる星空だけだ。
おかしいことなど何一つない――そう思った刹那。
からん、と、何かの落ちる乾いた音がした。
音のあった場所を見ると、そこにはガルドの持っていた光源杖が転がっていた。
そして、持っていた筈のガルドの姿が――そこにはなかった。
「え――」
杖に付着していた血液は、気のせいでなければ先ほどより少し広く朱を広めていた。
その場にいた全員の人間が、一瞬だけ何の反応も取れなかった。
それほど前触れなく、唐突に、それは起きた。
「ガルド……って、今、そこにいたよな」
「……………ああ」
「なんで、いないんだよ」
「……………」
ドレッドは質問に答えない。いや、答えられないのだろう。その場にいる誰もが、まさか突然呪法師がまるまる一人「消える」等とは思わない。それは警戒とか予測といった通常の思考の範疇から余りにも逸脱しすぎている。
しかし、事実として先ほどまで縄を持って構えていたガルドはいないし、落ちた光源杖に付着した血液に真新しい物が増えている。
何故いない?
自分から消えた訳ではあるまいし、方法がない。
敵に何かされた?
周囲を幾ら見渡しても、敵はいない。
その場の全員が、何が起きているのかまるで理解できていなかった。
――上を見上げたままのギルティーネを除いて。
「――ッ!!!」
突然、ギルティーネは目にも止まらない速度でトレックの襟首を掴みとって無理やり背中に背負い、全力でその場を駆け出した。常人離れした速度にトレックは声を出す暇さえもなく左腕と右足をギルティーネに無理矢理掴まれていた。
「なっ、何をッ!?」
「……………ッ!!」
やっと舌を噛まないギリギリの口で叫ぶが、返答など返ってくるわけがない。彼女は喋ることが出来ない。それでもまるで意図の掴めない行動に激しく混乱した頭はどうしても確認を求めてしまう。
凄まじい速度で疾走するギルティーネの背中の上は激しく揺れ、万力のようにがっちり捕まれた腕と脚が締め付けられて瞬時にむくむ。何の脈絡もないその走りに唖然としていたのはトレックだけではなく、残されたドレッドとステディとの距離も遠ざかっていく。
「御しきれていると思ったのは買い被り過ぎたかッ!!ステディ、追うぞ!!」
「え?……は、はいっ!!しかしガルドは――」
「見つからない以上は捨て置く他あるまいッ!!」
それは非情で、しかし集団として行動する以上は避けられない判断だった。
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